半月舎だより 2

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2016年10月17日更新

「移動図書館ひまわり号」前川恒雄 著・夏葉社・2016年7月発行  2,160円

吉祥寺のひとり出版社・夏葉社

 半月舎は古本屋だが、いくつか新刊の本もあつかっている。彦根に育った詩人・高祖保に関する書籍を発行している金沢の出版社「龜鳴屋」、自由ヶ丘と京都に拠点をもつ出版社「ミシマ社」、京都の本屋「誠光社」から発行されている本の一部。そして、東京の吉祥寺で、島田潤一郎さんがひとりで営んでいる出版社「夏葉社」の本。
 夏葉社の本だけは、現在流通している本をすべて置かせてもらっている。2009年に創業した夏葉社からは、絶版となっていた名著の復刊を中心に、現在20冊ほどが発行されている。
 しかし、常時それらの本を揃える本屋は、現在のところ滋賀県にはない。昨年、尊敬する田口史人さんの書籍「レコードと暮らし」が夏葉社から出版されたとき、そのことに気づいた。小さくとも信念をこめて発行を続ける夏葉社の本が、滋賀で買えないことに落胆した。けれど、それなら自分の店で売ってみようと思い立ち、島田さんにメールを書いた。在庫のある本をすべて3冊ずつ仕入れさせてくださいとお願いすると、快諾のお返事とともに「うちの本はそんなに売れないので、3冊ずつはお店の負担になると思います。2冊ずつでどうですか」とアドバイスをくださった。それから、新刊が出るたびに、在庫を切らすたびに、2冊ずつ注文させてもらっている。
 

「移動図書館ひまわり号」復刊

 6月のある日、ひとりの女性がとても熱心に本棚を見た後、夏葉社の本を買ってくださった。そして、7月に前川恒雄さんの『移動図書館ひまわり号』が夏葉社から復刊されることを教えてくれた。
 私は不勉強で、前川恒雄さんの著作を読んだことがなかった。しかし、1980年代に滋賀県立図書館の館長をされ、それが現在の滋賀県の図書館の機運をつくったということはぼんやりと知っていた。また、図書館の活動に一生懸命取り組んでいる方たちの多くから「前川先生」という呼び名とともに、その尊敬の念を感じていた。
 「移動図書館ひまわり号」は、戦後日本で旧態依然とした図書館界の状況に立ち向かった日野市立図書館と、館長として最前線で戦い続けた前川さんの記録である。
 それは、当時としてはまったく新しい、「市民のための図書館」を日本につくるための戦いだった。市民が読みたい本ではなく、市民を「教育」するために「良書」を与えようという高みからの使命感に気づかない活動。「あんまり市民を賢くされてはこまる」という、悪意なき欺瞞に満ちた観念。図書館は受験勉強する場所であるという認識。行政体制。そして、「日本の近代化は上べのものにしか行われず、人間の個性を解放しようとしなかった。その結果、戦争から敗戦へという道をたどったのに、今になってもその歴史から学んでいない」(37.38p)社会との戦いでもあった。
 7月にこの本が発行されると、県内から、何人もの図書館関係者の方が、半月舎へ「移動図書館ひまわり号」をもとめて来てくださった。ふだん、引き取った本を売っているばかりの古本屋には、新鮮な喜びだった。
 9月2日、店をひとにまかせ、私は草津に向かった。草津市民プラザで開かれた「志のバトンをつなぐ 前川恒雄『移動図書館ひまわり号』復刊記念のつどい」に行き、夏葉社の島田さんと著者の前川さんのお話、そして今も図書館の現場や本屋で、「戦い」を続けるみなさんのお話を聞いた。時代とともに敵は姿を変えるが、「戦い」はなおも続いている。
 私も、古本屋の片隅から、ひっそり「戦い」を続けるのだと、小さく決意を固めた。  

M

編集部

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