おたまの頃を過ぎても

かえるの学校

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2016年5月27日更新

 学生のときからの癖で、かえるさんこと細馬宏通さんのことをつい「先生!」と呼んでしまう。細馬さんは滋賀県立大学の教授だが、研究者としてだけでなく、文化人としてもよく知られていて、音楽の世界ではバンド「かえる目」の作詞作曲・ボーカルを担当する「かえるさん」という名まえでも通っている。そんな細馬さんを知る人たちの前で「先生」と呼んでしまうのは、いかにも学校の空気をしょっているようで、時に気恥ずかしい。しかしこれはどうにも、変えようがないように思う。
 今から6年ほど前、信楽のとある民家を改装したギャラリーで、かえるさんが歌う「トランジスタ・ラジオ」を聞いた。自作の曲を、おだやかにギターを弾きながら歌っていたかえるさんが、アンコールにこたえてギターをかき鳴らし出し、忌野清志郎が憑依したようにはげしく「Woo 授業をサボッて」と歌い出したときのことを、今でも覚えている。民家は観客の合唱につつまれた。あの頃わたしはまだ学生で、細馬研究室に所属していた。
 卒業後、半月舎という小さな古本屋を始めてからも、企画に参加してもらったり、本を提供してもらったりと、お世話になる関係はほそぼそと続いていた。
 さて先月。桜は満開を迎え、どこか浮き立つ春の夕暮れに、ギターを背負って自転車を漕ぐ、見知った姿をみとめた。「先生だ!」と手を振りながら近寄ると、「やあやあ」と細馬さんは自転車を降りた。世間話するうち、細馬さんは「そうだ、うたのしくみ彦根編をしないか」と提案してくれた。
 「うたのしくみ」とは、2014年にぴあから発行された細馬さんの著書である。古今東西のさまざまな名曲のしくみを、歌詞の音韻、楽曲の構造、時代背景などにまでわけ入って明かしたもので、一冊の本にまとまった後もネタは尽きず、ウェブ上で連載は続いている。その講義を彦根でシリーズ化しようというお誘いに、一も二もなく引き受けた。
 初回のテーマを考え出したらすぐに、6年前の「Woo 授業をサボッて」がよみがえってきて、わたしの頭をとらえた。5月には清志郎の命日があり、原宿の喫茶店シーモアグラスで開かれた清志郎をしのぶ小さな展覧会に細馬さんも参加していたことなどは、あとから知った偶然だ。
 かえるさんを先生に開く講座なので、「かえるの学校 音楽の時間」というシリーズ名を考えた。「『オタマジャクシの学校』ではなく『かえるの学校』というところに含蓄があるね」と細馬さんは言い、後日「オタマの頃を過ぎても」というキャッチフレーズを付けてくれた。そう、おとなになっても学校へ行くし、「先生!」と呼び続けるのだ。

 

かえるの学校 音楽の時間

1時間目 アンテナがナンバーをキャッチする 忌野清志郎の歌

日時: 2016年5月27日(金)19:00〜21:00(開場18:30)
会場: 半月舎(彦根市中央町2-29)
料金: 一般1,000円 / 学生500円 プラス1オーダー
定員: 20名(要予約)

お問い合わせ・予約 半月舎(担当: 御子柴)
0749-26-1201

2時間目 7/15(金)、3時間目 9/23(金)、4時間目 11/25(金)
※それぞれ開校時間は19:00〜21:00、教室は半月舎を予定

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

編集部

スポンサーリンク
関連キーワード