世界で一番すてきな発明

自動鐘撞き装置

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 甲良町 2014年7月22日更新

 法盛山正覚寺(犬上郡甲良町横関571)の梵鐘が、人の姿もないのにゴーンと時を告げる……。都市伝説や妖怪変化の仕業ではない。機械工学で実現した「自動鐘撞き装置」の話である。
 実際に鐘を撞く寺院にとって、毎日、同じ時間に同じ回数だけ撞くことは、責任のある仕事で、季節や天候によっては過酷だったりする。この煩雑な鐘撞きの作業を機械化できないかと、自動化装置が考案されるようになり、既に、数多く「自動鐘撞き装置」が存在している。インターネットを検索してみると、鐘撞き装置のライブ動画もアップされ、その様子を観ることもできる。時刻が来ると撞木(しゅもく)が突然発射するようなイメージで、なんとなく風情がない。
 ところが、正覚寺のそれは、時刻が来ると撞木は一旦、鐘の方(前方へ10センチ程)へ揺れ、次に大きく後方へ移動する(バックスイングをするような感じ)。後方へ移動した撞木は加速し解き放たれ鐘を撞く。そして、同じ動作を逆に繰り返し自ら静止する。機械音は全くしない。本当に人が撞いているかのように撞木が作動する。
優雅で音に余韻がある。
 この装置を発明したのは、正覚寺の直ぐ近くで暮らす上野保さん(66歳)である。「ようやく自分の納得いくものになりました。鐘撞きを自動化しようと思い立ったのは、20年ほど前になります。長年、機械設計に携わり、私のやってきた仕事は、3K(キケン・キツイ・キタナイ)の仕事から、人を解放することだったからです」。

 人が撞く音と寸分違わぬ音を再現する装置を目指し、試行錯誤を重ねた末の初号機を設置したのは、2010年12月26日だった。「二ヶ月に一度くらい誤作動がありました。皆、二ヶ月に一度くらいはOKだと……。でも私にとっては二ヶ月に一度は全く論外なのです」。上野さんの「機械屋」としてのプライドが許さなかったのだ。自分のイメージした音の自動化が叶ったのは最近のことで、2013年5月17日に自動鐘撞き装置の特許を得た。
 夏……、正覚寺の鐘は午前5時と午後6時に鳴る(冬は午前6時)。僕は午後6時の鐘を聞いた。驚いたのは、ゴーンゴーンと6回撞いた後、短く2回撞き、最期にもう一度ゴーンと…。これが真宗大谷派の撞き方なのだという。
「季節によって撞く時刻の変更もできますし、撞く間隔や強弱、特別な知識がなくても簡単に設定することができます。除夜の鐘も、自動で撞いている間にお参りの方が撞かれたとしても、システムが回数を記憶しますから問題ありません。私の好きな言葉は、実は、日立製作所のキャッチコピーで『すごい・かんたん・きもちいい』なんです」。
 上野さんは僕に、試行錯誤の過程や、どうしたらこうなるかをずっと話してくださった。『すごい・かんたん・きもちいい』を実現する物語だ。しかし、残念ながら僕にはほとんど理解できていない。上野さんは僕が理解できていないことを感じておられたのだろうが、それでもちゃんと最後まで話してくださった。ありがたかった。僕は、理解できなかったが、この発明が世界で一番すてきな発明のひとつであることはわかった。

自動鐘撞き装置のお問い合わせ

滋賀県犬上郡甲良町横関584-2 TEL: 0749-38-3506(上野  保)
滋賀県犬上郡甲良町横関738-1 TEL: 0749-38-2103(野瀬賢一)

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

小太郎

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