奇祭・茶わん祭
余呉町上丹生
5月4日。余呉町上丹生で伝統の「丹生茶わん祭」(県指定無形民俗文化財)が行われた。かつては3年に1度行われていたが、人手不足などが原因で、今年は5年振りの開催となる。前回の2009年の開催は6年振りだった。僕は二度目の経験だ。その時はこんな記事を書いた。
「昔、上丹生と下丹生の境近くにある末遠(すえとお)という所に、良質な陶土があり、そこで作った陶器を毎年、丹生神社に奉納したのが祭りの由来だといわれている。末遠とは須恵陶の意味であり、古い陶器そのものを指している。」「茶わんで飾りつけられた高さ7数メートルほどの曳山渡御を中心に、神輿や舞、しゃぎり(お囃子)などを子どもから大人まで、村中が一体となって奉納する奇祭だ。」「祭りの華は、なんといっても陶器を絶妙のバランスで組み上げた山飾りだろう。」「3基の曳山それぞれが、毎回、異なったテーマで飾りつけられる。飾りつけるといっても単純に陶器を上に重ねているだけではない。芸題に合わせて茶わんや皿、花瓶などを組み合せ、わざと重心が偏よって見えるように作られている。これで祭り当日、支えを外しても倒れた前例はない。」「制作に携わっている人は、家族にもその方法を口外することはない。」「祭りに参加できるのは、原則として上丹生の人だけである。あくまで、村内在住の人と出身者だけで伝承を守っていくことにこだわっている。」「曳山の山飾りは、歌舞伎や浄瑠璃、伝説、民話などからモチーフを採用して作られる。長浜曳山祭りの子供歌舞伎や飛騨高山祭の絡繰人形が古典の世界を再現しているように、丹生茶わん祭では重ね上げられた山飾りが、そのまま物語となっている。実は、伝統芸能や古典に明るくなくても、読み解く方法がある。
丹生茶わん祭の山飾りには、基本のパターンがある。一番下に人形を設置し(下人形)、その上に物語にちなんで形作った陶器を重ねていく。最後に、一番上に下とは違う人形(宙人形)を置く。下人形と宙人形で場面を挟んで作るのだ。上下どちらに主人公が配置されるのかは、選ばれた物語によって異なるが、上は身軽な人かお化けの場合が多い。」
2014年の今回は、集落外からも花奴や稚児役を募集して行われ、山飾りは、「牛若丸と弁慶」「鍋島猫騒動」「番町皿屋敷」だった。観客は前回が約8000人、今回は約9000人と聞いた。閑寂な山間の集落に人が押し寄せ、溢れた。僕は、山笑うもこもことした山々を背景に曳山や舞い、その長閑な渡りを期待していたが、叶わなかった……。それでも、空は青く山は緑、ゆらりゆらりと揺れる山飾りにひととき下界を忘れることができた。次の祭りは何年先なのか。再び、同じように、訪れることができるのだろうか、そんなことが気になった。
【小太郎】