淡海宇宙誌 XXXXIII 冬の巣箱
鳥人イカロスの末裔たちが集う湖辺のこっちの端に、このまちの港はあって、その港のそばに「カナリア」の小さな巣箱があります。
週末ごとに、仲間たちがいれかわり、たちかわり、羽を休めに立ち寄る巣箱。
めいめいのリズムで、お互いに過ごす時間を棲み分けながら、それでもひとことふたことあいさつを交せるほどの、のりしろの時間をわずかずつ重ねながら、いれかわり、たちかわり、立ち寄る小さな巣箱です。
ふところにかくしたちいさな、みえないたまごをそっとあたためるように、しずかに、じぶんのときをあたためている。湖を見ながら。
そんな素敵な巣箱もあるのだから、あなたもこの際、僕らのまちにお住まいなさい。
ここが僕らのついのすみかになってもいいなと決めたから、このまちに、僕らは家を持ちました。
引っ越しはさくらのころになるけれど、それまでに、あともうひと息寒くなったら、雪が降ったら、いちどあそびにいらっしゃい。
港の巣箱に案内します。
巣箱を出たら突堤の端まで行って、ゆうやけの湖、雪に夕日が照り映えてももいろの山、冬を見せたい。
このまちを好きになるには冬がいい。
それから人をかぞえよう。
だんだん濃くなる宵闇にじぶんのひかりを放ってしかも互いのひかりを侵さぬようにつかずはなれず、互いに互いをこころぼそくはさせないほどのやさしい間合いで暮らしている。
ほら、この湖のあのむこう岸になつかしく、だんだんともる灯りのように、そのように僕らのそばにいてくれる、このまちの人の名前をかぞえよう。