淡海宇宙誌 XXXVIII ヲニの居場所
セミの盛りに持ち出すのはちょっと気が引けるのですが、印象的だったのでご紹介します。ホタルの話です。
ことしのシーズン最中に、誘われてホタル狩りに行きました。人里の真ん中も真ん中、電車の駅のそばの小川で、最近ちょっと見なかったくらいの数のホタルを見ることができました。
ときおり間近の線路の上を、川を跨いで電車が行き過ぎます。轟轟と音を立てて走り去る電車、その窓の光の帯が流れて、去って、足元の闇にはふたたびしずかに瞬くホタル。「銀河鉄道…」というつぶやきがこぼれます。
さてそのときご一緒したある方が聞かせてくれた話です。
あるとき知り合いのテレビ局の記者がホタルについて取材したいというので案内することになった。撮影隊も率いてホタルの棲みかに着いたところで、誰かが見つけて「あ、ホタル、そら、そこに!」と声を上げた。すかさずおもわず照明係がホタルに向けてパッとまぶしいライトを照らした。という笑い話。
「ホタルに向かってあんな強烈なライトを当てるなんて、ねえ」とその場でも笑いあったのでしたが、ややあって、でもこのお話は意外に深い教えを含んでいるねえ、と頷きあいました。
僕らには思いあたるあるひとつの言葉がありました。
「この子らを世の光に」。
戦後この国の混乱期に、この滋賀の地で障害のある子らの福祉と教育に一生を捧げ、「社会福祉の父」とおくり名された糸賀一雄先生の言葉です。
「コノコラニヨノヒカリヲ」
あててやろうというのではなく、
「コノコラヲヨノヒカリニ」
なのである。
そんなふうに僕たちに「ヲニ」の居場所と福祉のこころを教えてくれた先生が、いままた新たにこの世の光に照らされる。来年生誕百年祭です。