ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXXVI ムカデの便りとマメダンス

このエントリーをはてなブックマークに追加 2013年6月5日更新

イラスト 上田三佳

 夫婦ふたりに娘がひとり、金魚一匹、ネコ一匹の一家です。
 ネコはオスの黒ネコです。五年ほど前の年の瀬、風の吹く夜に我が家に転がり込んできた。
 娘を身ごもってまもなく、ひどいつわりのため近所に入院していた妻を仕事帰りに見舞ってから帰宅した真っ暗な玄関先、手探りで鍵を開け扉を開けた瞬間、足元をサッと、夜より黒い小さい塊が家の中へ飛び込んだ。
 自分でも不思議に思うのですが、真っ暗闇夜にその黒いのが飛び込んだのを感じた僕はその刹那「アッ、ネコだ!このネコは飼う!」と電撃的に決断をした。彼のほうでも「エイ、きめた!この家に棲む!」との決意で飛び込んだのかも知れません。
 それでも一応その決断が正しいものかを確かめるため、幾日かはいつでも彼が出て行けるようにとお勝手の戸を開けたままにして様子を見ていたところが、いっこうよそへいく風もないどころか、生まれたときからうちに居るような素振りでいるので、年明けてから妻に打ち明け(これはネコ好きの妻をぬか喜びさせぬための処置)、大家さんの許しを得、晴れて家族の一員として迎えることになったわけです。
 名前を「マメ」と名づけ、以来五年余り。その名の通りの小まめの子ネコはグングン育って今や周囲から「大豆」を襲名しては、とささやかれるほど立派なネコになりました。
 田舎家に住む仲間から「ムカデの便り」が届き出す季節。でも我が家では、百発百中、闇の中にも頼もしい相棒がこの虫の侵入をいち早く察知して、皆がぐうすか寝ていても、彼創案の「ムカデのダンス」でドタリバタリと知らせてくれる。僕は火箸で虫をつかんで南無と唱えてお引取り願う連携プレーで退治です。今シーズンもよろしく。

 

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