ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXXV 歯ぎしりの哲人

このエントリーをはてなブックマークに追加 2013年5月10日更新

イラスト 上田三佳

 彼の名はイシウス。ギリシアのルクレティウスやローマのアウレリウス、ましてやルシウスなどとは一切親交はなかったが、やはり見るからに哲人の風貌である。頭の回転はもちろん速い。が、相当の石頭である。いつ出会っても、にが虫をかみつぶしたような、リキんだ顔をしているうえに、ゴリゴリと歯ぎしりするのが癖である。歯ぎしりしながら、世のなかのいろんなものをかみ砕いては吐き出して、心ゆくまで分析するのをなりわいとする。
 彼の名はイシウス。生まれはイブキのマガタニである。
 というわけで「石臼」に興味津々です。
 水源の里でまちづくりに取り組んでいる仲間が主催して「・・・のまどカフェ」という催しを開くことになりました。「・・・のまど」というのは、英語の「Nomad(遊牧民)」と何々の「窓」という二つの意味を込めた名で、遊牧民のようにあちこちで移動カフェを開き、そこでの出会いと語らいを通じて、人々のいろんな窓を開けていこうという話。
 五月の中ごろ「開店」で、今度のテーマは「昔の暮らし」。なので伊吹山麓曲谷あたりが産地であった石臼が出てきた次第。
 初めはちょっと大豆を挽いてきな粉をつくってみようか、くらいの思い付きから、せっかくなのでカフェで出す軽食も石臼を使ってつくってみよう、ということになり、それならいっそコーヒー豆もゴリゴリ挽いてみたいものだ、と話にどんどん翼が生えて、石臼ひとつでみんなワクワクしています。
 石臼をゴリゴリ回す、そんな手間暇を大事に思い、よろこぶ人が増えてきました。
 マガタニーノ・イシウスが再び語りはじめると、古くて新しいイブキの時間が回りはじめる。

 

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