淡海宇宙誌 XXVIII 彼岸の道
イラスト 上田三佳
我が家の裏はお寺です。我が裏庭とお寺の境内との間は背高のブロック塀で隔てられています。塀はお寺を囲んで入り組んだ家々との境界線上を鉤型に折れつつぐるりと廻っています。
洗面所、あるいは台所の窓から覗くとブロック塀の天辺がちょうど目線の高さになるのですが、見ていると、いろいろそこを通るものたちがあります。
我が家の飼い猫。背戸から出てこの塀に跳び上がり、塀伝いにご近所周りに出かけます。彼の縄張り検めの巡回路のはずなのですが、同じ塀の上を大きい野良猫が通ります。それがいかにもふてぶてしい。ワアとかいって脅かしたって動じない。悠然と我がもの顔で行き過ぎる。
ここを通るのは猫だけではありません。先日朝方歯磨きしながら眺めていたら、キツネがふわりと歩いていった。
我が家の猫が夜更けの窓辺で塀の上をじっと見つめていることがあるので、他にも何か通るのでしょう。
この塀はさしづめ人里のけものみち。それもハイウェイといったところでしょうか。
そんなハイウェイの傍ら、裏庭の一隅に、毎年ひとむらの彼岸花が咲く。友との別れが重なった今年もそんな季節です。
人の友とのまさかの別れ。遠くの町のよあけの道で自分の夢まで追い抜いて行ってしまった。
けものの友との二つの別れ。この町で出会ったなかでも相当古い、犬猫二匹の友でした。
この町で十八年。まだ、といっても犬猫の一生分、我が齢三十六の半分にあたる歳月をここで過ごしできたんだなあ。
さて「彼の岸」に渡るにも、人の道、けものの道の別というのがあるかしら。知り合い同士なのだから、皆連れ立って渡ったらいい。やすらかに。