ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXV 「チ」のつながり

このエントリーをはてなブックマークに追加 2012年7月6日更新

「りんかく」 上田三佳

 「カタチ」という語は「カタ」と「チ」の二つのことばにほどけます。
 「カタ」は「型」。モノのすがたや形状のこと。
 では「チ」は何か。「チ」の語は漢字で「霊」と書き、カミや自然の威力を意味する国語のなかでは最も古いことばの一つです。
 例えば「水霊」は「ミヅチ」と読んで、水の力を意味します。雷は「イカヅチ」ですが、「イカヅチ」の「チ」も雷のはげしく勢いのあるさまをあらわしている。神話に出てくる「ヤマタノオロチ」。大蛇を意味する「オロチ」の「チ」もまた同様です。「東風(コチ)」や「早風(ハヤチ)」も自然の息吹、風の威力に名付けたのです。
 「カタチ」というのは「型‐霊」であって、モノの見かけのすがただけでなく、そのモノのすがた自体が持つ力とか、あるモノにあるすがたをとらせる力も併せて表わすことばです。
 お気づきでしょうが、この「チ」と「血」と「地」と「乳」と「道」はつながっている。
 いま、淡海では「art brut(アールブリュット)」すなわち「生(き、なま)の芸術」をめぐる動きが盛んです。
 専門の美術教育を受けていない人たちのつくる芸術であり、生きものの内からわき上がる衝動や息づかいそのままに表現される芸術は、命すなわち「生(息)‐霊」つまりは「イノ‐チ」が「カタ‐チ」にマグマのように雪崩れ込むから迫力がある。
 「チ」とは本来、やむにやまれぬ宇宙の衝動、天地自然の力を意味しているのなら、「art brut」だけでなく、山でも雲でも、鳥でも人でもミミズでも、「カタ」は違えど、「カタチ」あるものみなみなどこかで「チ」がつながっているのです。

 

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