ソラミミ堂

淡海宇宙誌XXI カランさんの効き目

このエントリーをはてなブックマークに追加 2012年3月9日更新

 節分に追い出したばかりだというのに、やすやすとまた我が家に引き入れてしまっている。
 いけないなあ、情けないなあ、と思いながらも、ついその手助けを借りてしまうのは、僕たち親の至らなさです。
 鬼のことです。子の躾です。
 「言うことを聞かないと、鬼に取って喰われてしまうよ!」とか「こんないたずらっ子は鬼にお仕置きしてもらおうか!」とか、「悪いことばかりしていたら頭に角が生えてきて、鬼になってしまうよ!」というふうに、ちょっと手こずるような時、気やすく鬼に頼ってしまう。そのくせ毎年2月には、バラバラと豆を投げつけられて「鬼は外」では、彼らも随分迷惑でしょう。
 ところがわが村には、わが子にとって鬼よりこわいオバケが存在するのです。
 その名も「カランさん」。
 夜更ける頃に、カラーン、カラーンと鐘を鳴らしながら、村の通りを徘徊します。
 夜ごと決まった時間になると、遠くからカラーン…カラーン…と音が起こって、それがだんだんわが家の方へ近づいてくる。
 その音を聞きつけるや、わが子は遊びも何もかも放り出し、僕か妻か、手近な親のふところに一目散にとびこんで、ひっしと体にしがみつきます。胸元に顔を埋めて「カランさん」が、わが家の前を通り過ぎ、遠ざかるのをやり過ごします。
 「早く寝ないと、カランさんが来るよ!」と言っておどかしながら、その名があまりに効果テキメンなのと、自分にすがって神妙になるわが子がいじらしくまた愛おしくもあって、件のオバケの正体が、雨の日も風の日も毎夜欠かさず村の安心を守ってくれる夜回り当番さんなのだよとはなかなか明かしてやれないのです。

 

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