水に願いを、パンに想いを
石窯パンcafeつむぎ
愛知川の源流、永源寺ダムからもう少し奥へ進んだ東近江市蓼畑(たてはた)町に石窯でパンを焼く小さなパン屋がある。川沿いに建てられた店には石窯と併設してカフェスペースもあり、漂うパンの香りと四季折々の川の眺めを楽しみながらゆっくりとした時間を過ごすことができる。
パンを焼くのは高橋幸恵さん。7年ほど前、第二の人生は夢だったパンカフェをやろうと24年間続けてきた幼稚園の先生を辞めた。それから専門学校や野洲にあるパン屋で一からパンづくりを学び、昨年春、生まれ育った蓼畑で「石窯パンcafeつむぎ」をオープンした。
高橋さんは手間を惜しまない。パンの生地は国産小麦や無農薬の米粉と自家製天然酵母を使用、野菜や果物なども産地にこだわり、薪を焚いて熱した石窯で焼きあげる。そこまでするのは長年幼稚園の先生として子どもや母親たちと接する中で感じてきた食の大切さだった。子育ての経験者として忙しい母親の苦労がよく分かる一方、子どもたちが口にする食べ物はおろそかにしてはいけないと思った。だから母と子が一緒に、美味しくて身体にいいものをゆっくり食べることができる場所をという想いをこの店に込めた。
もうひとつこだわっているのが水。パンや飲み物に使う水はすべて隣の集落である黄和田町で湧き出ている井戸水を汲んできている。「人も地球もパンもその6〜7割は水。すべての源は水だと思うんです。水は人の気持ちに反応して変化するといわれています。だから私もパンを仕込む時にはまず、水や生地に『ありがとう』と伝えるところから始めます。目に見えないものの方が大事な気がして」と高橋さんは語る。実は、パンに用いる自家製の小麦酵母もはちみつや砂糖といった酵母の栄養となる物を一切入れずこの水だけで育てている。店主のこだわりというのはややもすると店を訪れる者に威圧感を与える場合もある。しかし高橋さんのこのこだわりは自分の思いを誇示するものというより、母が子を想うような温もりに感じられるのだ。
さて、この店をオープンするまでは蓼畑を出て暮らしていた高橋さん。あえて街から離れたここへ戻って店を始めたのは、過疎高齢化が進むこの地域で地元を盛り上げるためにイベントを開催しようとする若者の存在を知ったからだそうだ。「学校も無くなり地元愛が薄れていると想っていたのに、若い子たちが頑張っているのを知って嬉しくなって。私が帰らなあかんわと思ったんです」と高橋さん。春にはこの地域に移住してきた木工作家たちが開くイベントに参加する。
「私がここへ帰ってきた意味は」と考える日々だというが、地元の人と外から訪れた人をつないでいくことが出来るのは地元育ちの高橋さんだからこそ。「つなぎ役」にという想いは店名の「つむぎ」にも込められている。「糸をつむぐように、私の店が横糸、いろんな人が縦糸になっていろんなものが織れていけば。そんな場になればと思います」高橋さんは夢を語ってくれた。
石窯パン cafe つむぎ
滋賀県東近江市蓼畑町425-1 / TEL:50-5802-9481
営業 11:30〜18:00 / 定休日 火・水・木曜日
食パン(プレーン)・つむぎバケット 各300円 、米粉あんぱん 220円、クリームチーズはちみつ 250円、季節の野菜のオムレツサンド 500円、季節の野菜の豆乳ポタージュ 300円、珈琲・信楽高原紅茶 各400円、好きなサンドイッチにドリンク、スープが付いたサンドイッチセットが1,100円
すべて店内で食べることができる。
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【青磁】