3代目のピーナッツ煎餅

みつとし本舗

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 西浅井町 2012年10月24日更新

2代目の山口ともこさんと息子の大地さん

 西浅井町大浦にピーナッツ煎餅だけを40年焼き続けている店がある。築130年を越える集落一の古民家に店舗を構えるみつとし本舗だ。
 ピーナッツ煎餅「丸子船」。刻んだピーナッツが混ぜ込まれている生地はほどよい厚さで、噛めばふわっとピーナッツの香りが広がる。やさしい甘さの秘密はハチミツ。あえて煎餅には不向きといわれるハチミツを入れることで、口の中でほろっとほどける風合いになった。日本茶にもコーヒーにもあうのが嬉しいこの煎餅を求めて、遠くから買いにくる人もいるという。

3代目を継ぐ山口大地さん

 今、店は2代目の山口ともこさん(47)が切り盛りしている。そして製造全般を任されているのが息子の大地さん(20)、3代目である。
 西浅井生まれの大阪育ち。帰省すると祖父の煎餅づくりを手伝うのはごく自然なことだった。中学3年の時、身体を病んだ初代に代わって、店を支えることになった母とともにここへ戻ってきた。
 最初から3代目を継ぐつもりだったわけではない。高校2年の時に父親が亡くなり、煎餅ひとつで家計を支える母を手伝わざるを得なくなったのが始まりだった。
 しかし昨年冬、創業した頃から使い続けてきた機械がついに壊れてしまった。新しい機械は、今までのものと火のあて方も製造ラインの長さも違っていた。それまでは祖父が築いてきた製法通りにしていれば「丸子船」の味を出せたが、新しい機械ではそうはいかなかった。それが3代目としての腹をくくるきっかけだった。
 機械と格闘してはじめて祖父の味の壁はこんなにも高かったのかと思い知らされた。数をこなすしかないと季節や天候の変化に合わせて生地を調整し、試行錯誤を重ねた。自分のやり方ひとつで味が左右されるという責任感は危機感や不安だけでなく楽しさにもつながる。今は少しずつ勘が身についてきたという。
 畳職人だった祖父は40歳になってから、煎餅づくりの修業をして「丸子船」の味を生み出した。祖父の姿を見てきた大地さん。製法を守るのではなく、味を守る。味に正解はないが、祖父の味に近づけば「これや」と直感できるという。

 これから先の展開を考えないわけではない。でも今はまず煎餅の味に向き合うと決めている。
「3年で味を確立させたいです。ちゃんとしたものができるまでは他のことに目移りしては、お客様に失礼だと思うんです。3年しっかり準備をして、その後すぐに新しく動き出せるようにしたいと思っています。といって、10年経っても変わってないかもしれないですけれど……」と3代目は笑った。
 味に限らず、マニュアルでは継承できない技の淡々としたリレーが少しずつ姿を消している。そんな中、西浅井の一角で静かにひとつバトンが託されていた。    

みつとし本舗

滋賀県長浜市西浅井町大浦1601
TEL: 0749-89-0191(電話注文受付可)
営業時間  8:00〜18:00 / 定休日  第2・3日曜日の午前中

丸子船 150g入り 525円、3枚入り 10袋 1,260円、3枚入り24袋 2,500円

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

れん

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