水辺まで30秒、湖岸の小さなパン工房
パン工房 VIDAL
比良山と琵琶湖が好きで、愛知から滋賀に移り住んだパン屋さんがある。店主の加藤由加里さんは、3年前、彦根の松原にパン工房「VIDAL」をオープンした。松原水泳場のほぼ目の前、工房を出れば直ぐそこに水辺があり、ゆるい曲線を描く湖の向こう側に比良山系が真夏の雲をつかんでいた。
「近郊の山々を登って15年ほどになります。なかでもこの松原から眺める比良山系が好きで……。水の豊かさにも惹かれて、開業するなら滋賀と決めていました」。滋賀中を探し回った結果、まさにお気に入りの場所での開店となった。
小さくて可愛いパン工房には、定番の食パンやバゲット、お惣菜系、スイート系、私の好物のベーコンエピなど焼き上がったパンが並んでいる。どのパンも少しずつ食べてみたくなるほどで、何を買って帰ろうか迷っていると、加藤さんの声がした。「これはチョコを生地に練りこんであるけれど、全然くどくないの。大きいけれどあっという間に食べ切れてしまうよ」、「キーマカレーパンは、香辛料をきかせてあるからスパイシーなのが好きならおすすめ……」。
小さなお店の中では、レジに立つ加藤さんととても距離が近い。
「私自身は噛み応えがあって、生地そのものに味わいを感じることができるバゲットのようなハード生地が好きなんです。パン作りの工程でも生地作りが好きですね。パンは発酵が必要な生き物です。日々変わる生地の具合と向き合いながら、おいしい生地だねと言ってもらえるようなパンをめざしています」。
休みの日にタイミングがあえば、どこかの山に登っているという。最近南アルプスに行って来たそうだ。「ずっと工房にこもっているから体が自然を求めるんでしょうね、きっと。頂に立ったときの達成感が山登りの何よりの魅力。だからしんどくてもまた登りにいっちゃう」。パンの生地作りと山登りは何処か似たところがあるのかもしれないと思った。
最近山に興味があって、と伝えると加藤さんはとてもうれしそうにしてくださった。トレイ片手に山談義を聞かせてもらえるのは、「VIDAL」ならでは。加藤さんはきっと次に山に登るまでの間、湖岸の小さなパン工房で生地をこねているのだ。
パン工房 VIDAL
滋賀県彦根市松原町1097-6 / TEL: 0749-22-4604
営業時間 10:00〜売切れ次第終了 / 日曜・月曜定休
バゲット220円、クロワッサン120円、オレンジベーグル140円、バナナブレッド120円、ベーコンエピ160円、チョコラクーロンヌ160円、クッキーチーズ120円など
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
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