車もお腹も満タンに…!
花本石油店 / 工房 和楽
国道307号線、中里交差点から永源寺に向かう。途中、「花本石油店」というガソリンスタンドがある。セルフ給油のシステムにまだ馴染めない僕は、スタッフ給油の店を見つけると、給油するか否、微妙なタイミングでも立ち寄る。この日もそうだった。
店頭で、何種類かのパンが売られていた。ガソリンスタンドとパン……?「人と車、両方のお腹を満タンに」というキャンペーンでも開催されているのかと思った。しかし、どうもそうではない。一般的によく見かけるパンとは少し雰囲気が違う。整然とラックに並べられたパンの上には「2〜3日でかたくなったときはレンジで温めてください」と手書きのメモがあり、焼き色が少し濃いところも、手作りの雰囲気である。
尋ねてみたところ、近くの「大萩茗荷村」のメンバーが通っている知的障害者授産施設「工房和楽(わらく)」で作られたものを、店頭で委託販売しているとのことだった。週に3回届けられるそうだ。「他では食べることができない味」ということで、入荷したその日のうちに売り切れることもあるという。
ぜひ、その作り手にもお話を伺ってみたいと思い、スタンドでお願いして連絡をとってもらった。
「大萩茗荷村」は行政単位の村ではない。映画にもなった田村一二の著書「茗荷村見聞記」に端を発して作られた、農業生産を基盤とする自立循環型・人間に温かい社会づくりを目指す団体で、老若男女、様々な人たちが集っている。
「工房和楽」では、地場産の素材を使った漬物や味噌などの加工食品と家具など木工製品の製造をおこなっている。パン作りを始めたのは5年前からで、あるきっかけがあった。
パン作りの指導をしている東浦勝馬さん(66)は、大阪のパン製造業の大手である神戸屋で37年間、職人として勤め上げたベテランである。
「勤めているときから、自分の中で作ってみたいパンのアイデアがいくつもあったんです。定年後に大萩茗荷村でそれを伝えたいと思ったのが始まりです」。
東浦さんが作ってみたかったパン、そのひとつが全粒粉を使用するものである。胚乳だけを粉にした普通の小麦粉とは違い、表皮や胚芽もすべて粉にしたもので、それで焼き上げたパンは少し茶系の色が濃くなるのが特徴である。一般的なパンより保存が難しいが、風味が強く、数倍の食物繊維やミネラルを含んでいる。
「せっかくだから、特性を持たせたパンをここの皆さんと一緒に作りたかった。その方が、作っている人も、食べる人も楽しいですからね」。
「工房和楽」では、東浦さんをはじめ6名が、月・水・金の午前中にパンを焼く。食パンから菓子パンまで、全部で15種類ほどのレパートリーがある。販売は、花本石油店のほか、道の駅「愛東マーガレットステーション」や多賀絵馬通りにある「まるよし」、グループホームなどで、近隣の個人宅にも配達されている。知る人ぞ知る東近江発のパンだったのである。花本石油店さんには「大萩茗荷村」のスタッフがよく利用する関係で、置かせてもらうようになったそうだ。狙い目は「月・水・金の午後3時頃」。配達されたばかりの出来たてが並ぶ時間である。
僕はといえば、ちゃっかりお腹も車も満タンにして、良い気分だったりする。
社会福祉法人 美輪湖の家
知的障害者通所授産施設 工房 和楽
滋賀県東近江市上山町883-1 / TEL: 0749-46-8127
花本石油店
滋賀県東近江市百済寺本町612-3
TEL: 0749-46-0068
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【木屋凧】