瓦の上、そばの下

レストラン「小谷城」の戦国瓦そば

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2009年9月30日更新

須賀谷温泉

 すき焼きのルーツは、畑を耕すのに使う鋤(すき)の金属部分の上で肉を焼いて食べたのが始まりだという。ずっと以前、教科書か何かで読んだ……、その大胆な発想に感心したことを覚えている。何故、鋤を使う必要があったのか、書かれていたのかもしれないが記憶にない。

 小谷山に近い須賀谷温泉内のレストラン「小谷城」では、熱した瓦の上にそばをのせた料理がある。瓦を使う必然性は……。
 料理長の徳久勲さんによると、「瓦そば」は山口県の名物料理。「佐賀県出身なので、けっこう身近な食べ物だったんです。戦国武将たちは戦のとき焼いた瓦の上で干飯(ほしいい)を温めて食べていたそうですので、『戦国瓦そば』と名づけてお出ししています」
 須賀谷には小谷城主浅井長政や妻お市の方も湯治に訪れた名湯である。そしてこの辺りは、姉川の戦をはじめ、戦国時代の歴史の舞台である。また、賤ヶ岳七本槍のひとり片桐且元の出生地でもあり、戦国ファンが熱い視線を注ぐ場所なのである。『戦国瓦そば』は須賀谷ならでは、うってつけのネーミングだ。


戦国瓦そば

 瓦そばは、「オーダーが重なり、瓦の数が足らなくなってくると、近くの家の瓦がほしいくらいです」と徳久さんが笑うように、本物の瓦をオーブンで20〜30分かけて熱する。その上に温かい伊吹産茶そば、さらにその上には牛肉のしぐれ煮、錦糸卵、干ししいたけの含め煮がきれいに並んでいる。これらを混ぜ合わせそばつゆでいただく。上のほうは茹でそばの食感、熱々の瓦に接したところは固焼きそばのようにパリッとして、陶板焼きに似ている。
 食べていると、緩やかなカーブの瓦の肌が見えてくる。箸を止め注視する、お盆ごと持って重さを感じてみる……。瓦をこんな間近で観察するのは初めてのことかもしれない。
 鋤や瓦の他に、本来の目的から外れて調理器具になったアイテムはあるのだろうか……。バイクのラジエターでマシュマロを焼いたという伝説的な話を聞いたことがある。鋤も瓦もそうだが、焼く・温めるという行為の緊急措置が調理法として定着していったのだろう……。
 しかし、戦国時代の瓦の普及率はどれくらいだったのか。城にも瓦を使い始めた頃だから、勝利を祝う干飯だったのかもしれない。そばに隠れる瓦の不思議に思いは巡るのである。

 この日、私はそばを食べるために須賀谷温泉を訪れたのだが、「次からは瓦が熱くなるまでお湯に入っていただくといいですよ。出てこられたらちょうどご用意ができていますから」と勧められた。
 須賀谷温泉は県内でも珍しい源泉かけ流し。湧き出したお湯が絶え間なく湯船に注ぎ込んでいる。茶褐色なのは鉄分が酸化しているためで、胃腸病などに効能があるという。食いしん坊なのに胃腸が年中不調な私にぴったりのコースである。

 

須賀谷温泉内 レストラン「小谷城」

滋賀県長浜市須賀谷町36 TEL: 0749-74-2235
レストラン営業時間 11:00〜14:00(土日は20:00まで)
戦国瓦そば3,150円(2人前)瓦の焼時間があるため事前の予約が望ましい。レストランのみの利用も可。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

椰子

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