足軽組屋敷の茶房で沈思熟考

ギャラリー&茶房 みごと庵

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2020年9月30日更新

 1787年に建てられた旧彦根藩足軽組屋敷「善利組・林家住宅」(市指定文化財)をできる限り江戸時代の佇まいに戻しながら改装し「ギャラリー&茶房みごと庵」が9月1日にオープンした。オーナーは中川一志郎さん(62)、湖東焼の再興に取り組む陶芸家である。

 「湖東焼」は江戸時代後期に彦根藩の藩窯として隆盛したやきものである。黄金時代には、磁器を中心に、細やかで美しく当時のやきものを代表する高い完成度を誇っていた。藩窯として存続期間が短く「幻の名陶」と冠がつく。明治時代となり、湖東焼は藩の後ろだてを失い、民窯として明治28年まで細々と存続するが、かつての湖東焼の面影はなく途絶えることになる。
 中川さんは廃絶を惜しみ、復興を志し、1986年彦根市内に築窯、1997年「一志郎窯」を開窯し独立した。ギャラリーには江戸時代の湖東焼コレクション40点を展示するほか、自らの作品の展示販売も行っている。

 彦根の足軽組屋敷は、城下町のもっとも外側に、城下を取り囲むように屋敷を連ね、彦根城と城下町を守備する役割を担っていた。足軽組屋敷は、彦根藩の作事方が建てた一戸建ての官舎である。善利組の規模は大きく、外堀と善利川(芹川)の間、東西約750メートル、南北約300メートルに及び、間口5間(約9メートル)、奥行10間(約18メートル)ほどの敷地に、木戸門と塀に囲まれた小さいが武家屋敷の体裁を整えた建物が連綿と続いていたのだ。
 「ギャラリー&茶房みごと庵」として生まれかわった「善利組・林家住宅」は、彦根に現存する最も古い足軽組屋敷である。旧善利組足軽組屋敷の家屋は基本的な間取りは同じでも、木戸門や塀のすぐ内側に主屋が接するタイプと前庭を設けるタイプ、平入りと妻入りなど4タイプあるらしい。

 「みごと庵」は茶房である。名前の由来は、「美しい仕事」の「美事」、「味な仕事」の「味事」などの思いが込められている。
 陶器にこだわりガラスの器は一切使用しないなど、中川さんのこだわりが随所にある。そのこだわりのひとつひとつを感じとることができれば、「天晴れ」の「お見事!」なのかもしれない。
 おすすめは神戸のスイーツ人気店マモン・エ・フィーユのオリジナルケーキでマロングラッセ・小豆のパウンドは各300円。厳選した豆で淹れたコーヒー、紅茶やチャイ(各450円)。器はカウンターに用意されたなかから好みのものを選ぶことができる。
 隣接する工房「再興湖東焼 一志郎窯」では陶芸教室(要予約)も行っている。近々、ランチも始める予定だそうだ。陶芸教室に参加し、ランチを楽しみ、足軽組屋敷を散策というのもいいかもしれない。
 また、「みごと庵」は車が走る道路から随分と奥まったところにあるので、聞こえてくる音はわずかである。しばし、沈思熟考する時間を持つことができるに違いない。実は、これが一番の贅沢だったりするのである。

 

小太郎

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