練習しただけうまくなる

　静かなバンドブームが続いている世の中である。
　「子どもからお年寄りまで、誰だって生きている間は音楽と関わっている。幸運なのは、それをおもいっきり楽しめる人だ」。
　最近、そう熱く語った知人は、かつてバンドマンを夢見ていた。「おもいっきり」という言葉がすごい。辞書をひくと「満足できるまでするさま。思う存分」とあった。
　確かに、自分の思いが切れるまで、自分自身の音楽を楽しむのは難しい。どんな音楽でも極めようと思うほどに、いろいろと障害も出てくるだろう。音量や技術、仲間とセッションできる環境などなど……。すべてに気兼ねなく音を出すことができる人は、文字通り幸運なのかもしれない。

　その知人に紹介されて、彦根市開出今町の音楽貸スタジオ「リバーノース」を訪ねる機会があった。先月末にオープンしたばかりである。不動産屋さんが運営しているという、少し変わったスタイルだ。不動産屋さんのスタッフが音楽好きで、老若男女問わず同好の士を応援したいと始められたそうである。
　以前は、彦根界隈で楽器を演奏する人は練習をするために、虎姫や草津まで出かけなければならなかったと聞いたことがある。単純に、音を「おもいっきり」出すことのできる場所が近場になかったのだ。学校や仕事帰りに仲間と集まり、1〜2時間練習するのが何よりも楽しかったという。「リバーノース」は、それを彦根で可能にした場所である。
　カラオケルームを改装した室内には、ドラムセットとギターアンプ、スタンドマイクが据え付けてあり、自由に使っていい。ロックに限らず、JAZZでも民謡でも、音楽に関する利用であればジャンルは問わない方針である。いずれは、このスタジオを利用する人たちでライブを、なんて構想もあるそうだ。
　「リバーノース」のキャッチコピーは『練習しただけうまくなる…』。件の知人は「ここならおもいっきりできるな」と張り切っていた。もう一度、夢に火がついたのかもしれない。

【F・B】