進化する櫻餅 絶妙なる解式

いと重菓舗のさくら餅

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2009年2月22日更新

 今年でちょうど創業200年となる彦根城下のいと重菓舗に、桜餅の方程式が残っていると聞いた。保存されている古いチラシに書かれているというので、訪ねてみた。

その解式はこうである。
『匂ふ+武士+團子−高楊枝×櫻哉=櫻餅!』
 チラシは、明治壬子彌生三月に刷られたと書いてある。明治から大正に元号が変わる年で、西暦でいうと1912年。今から約100年前、いと重の歴史の真ん中で
編み出された方程式である。
 しかし、式だけを眺めてみても、何を解いているのかさっぱりわからない。まるで暗号だ。チラシによると、桜と聞いて連想する古人が詠んだ次の句にヒントがあるという。
 朝日に匂ふ山櫻花/花は櫻木人は武士/武士は喰はねど高楊枝/花より團子/三日見ぬ間に櫻哉
 どれも有名な歌の一部や慣用句からの引用で、確かに、方程式に使われた語彙がそれぞれに含まれている。これらとチラシをヒントに、方程式を読み解いてみた。

 一、まず、桜は朝日に「匂う」ものである。二、また、花が桜のことならば、人といえば「武士」のことだ。三、武士は食べることが出来なくても「高楊枝」でプライドを誇示していたという。四、食べるといえば花より「団子」。五、花はやっぱり、あっという間に咲き誇る「桜哉」。
 最後でまた最初の句に戻る。ヒントは順番に連鎖しているのだ。ここから、式の要素を抽出する。桜餅とは、匂う武士(むし)団子……つまり、香ばしい蒸し団子から、高楊枝を引きぬいたものである。お花見団子といえば、江戸時代から三色の串だんごが一般的だが、そこから不消化の串を無くしたということだろう。そこに「桜哉」をかければ完成となる。チラシには、これはいと重の桜餅が進化した姿だと添えられていた。

いと重菓舗の関東風さくら餅

 最後の「桜哉をかける」だけが謎だったので、いと重の藤田武史さん(37)に尋ねてみた。
 「関東風のさくら餅は、餡をクレープ状の生地と桜葉でくるみます。まるで布団を『かける』ように。新しい春の味覚として紹介したのでしょうね」。
 いと重で関東風のさくら餅を作り始めた正確な年代は不明である。ただ、先々代の頃に始められたらしい。大正の終わりにはすでに定着していて、一時期は関西風道明寺と一緒に販売していたが、お客さんが求めるのは関東風ばかりだったという。
 当時のさくら餅と現在の製法が全く同じだとは限らない。細かい違いはあるだろうが、ともあれ、謎は解けた。
 約100年前の方程式は、彦根で新しい春が始まった報告だったのである。今年、いと重でさくら餅が販売されるのは、2月25日から桜の季節の間だそうだ(一個136円)。
 花といえば「いと重のさくら餅」。薄桜色の柔らかい彦根の春の味である。

いと重菓舗 本店

滋賀県彦根市本町1-3-37 / tel.0749-22-6003 / fax.0749-26-2645
営業時間 8:30〜18:00 / 定休日 火曜

gallery&shop 糸屋重兵衛

滋賀県彦根市本町1-7-41
tel.0749-22-6005
営業時間 10:00〜17:30 / 定休日 火曜
2010年5月までの開催予定。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

F・B

スポンサーリンク
関連キーワード