湖東・湖北の「馬」
2014年は午年。湖東・湖北の「馬」にちなんだ史跡・名勝を紹介したい。
司馬光 瓶割りの図
屋根瓦の図像は様々で、龍だったり、恵比寿、大黒、或いは波に家紋をあしらったものや宝珠など、その家で暮らす人々の願いが屋根には載っている。 彦根の松原で、今まで見たことのない屋根瓦を見つけた。正面から写真を撮ることができなかったので全体は解らないが、子どもが3人、リアルな屋根の瓦があった。
僕は、波兎の文様(竹生島紋様)を探すために屋根の瓦を普通の人よりは多く見ている。何かの意図があるはずなのだが、僕の知識では解りようがなかった。
故事に因むものだろうかと、「逸話」「子ども」などのキーワードをインターネットで検索してみて驚いた。超有名な「瓶割りの図」がモチーフだったのだ!
瓶割りの故事は、中国北宋時代の政治家司馬光の子どもの頃の話だ。
司馬光が7歳の時、友達と遊んでいる時に、1人が飲み水を貯める大きな水瓶に落ちて溺れそうになった。それを見て司馬光は、水瓶を割って友達を救い出した。父親は大切な水と水瓶を失ったが、友達の命を救った司馬光を褒めたという。
瓦に描かれた3人の子どもの背景にあるのは大きな瓶で、真ん中の子どもは故事から推測すると、割れた瓶から顔を出した瞬間だろうか……。人命が何よりも大切であることを説く故事のワンシーンである。命を救い、瓶から流れ出た水が火伏せとなるよう、この家の人は願ったのではないだろうか。
そしてまた、この家の側を通りかかり、屋根の「瓶割りの図」を見る時、誰もが命の大切さを思い、近所の子ども達にも「あの瓦は……」と司馬光の逸話を話して聞かせることもあっただろう。
何れ瓦は劣化し、失われる運命にある。屋根に戴いた瓦の意味も代々薄れていくのが常である。
2014年正月に僕はその故事を知ることになった。普段は失われている意味が、或日、何かの理由で甦ることがある。そこに在り続けることは、やはりそれだけで意味あることなのだ。
しかし……、万事はつつがなく、思い出すことがない方が幸せなのかもしれない。
少し、判らなくなった。