そこに臼と杵があるから、餅をつく
1920年代、3度に渡りエベレスト登頂に挑戦したイギリスの登山家ジョージ・マロリーにはこんな逸話がある。新聞の取材で「なぜあなたはエベレストを目指すのか」と問われてマロニーはこう答えたという。
「そこに山があるから(Because it is there. )」。
長浜で、出張もちつきをする集団がいる。名前を「長浜もちづくり役場」という。パン製造販売店「ポコ ア ポコ」を営む辻井孝裕さん(36)と、消防署員の西川孝夫さん(36)、そしてPC関連の仕事をする津田昭彦さん(40)の3人から成る。彼らは餅をつく理由をこのように答える。
「そこに臼と杵があるから」。
結成のきっかけは辻井さんの所有する臼と杵だった。辻井さんのおじいさんの代までは米屋だったため保管されていたのだ。臼と杵の存在を知る人から餅つきの依頼があり、次第に増え辻井さんは友人であった西川さんと津田さんに応援を頼むようになった。
3人は餅をつくのが異様に速い。6年前「全国もちつき王選手権」というテレビ特番に出場、蒸したもち米2升を臼に入れてから餅状になるまでの速さを競い、1分44秒の記録を出した。家庭用の餅つき機を使ったことがあれば、それがどれほど速いかわかるはずだ。番組ではさらに餅つきに関するいくつかの技を競い、準優勝に輝いた。 役割分担は、津田さんと西川さんがつき手、辻井さんが手返しと決まっている。なぜ、それほどまでに速く餅をつけるのか…極意のようなものがあるならぜひ伝授してほしいと思っていた(私は速くつく必要はないのだが)。3人とも集団を作るまでは、臼と杵での餅つきには縁がなかったというから経験ばかりではないはずだ。
「特にコツはないですねえ…あえて言うならつく方は手返しの手を狙う。手返しは振り下ろされる杵から逃げることでスピードが上がっていくんです」。つき手の西川さんは話す。殺気だった空気のようなものさえ生まれるのだという。餅つきは手際よく、すばやくが大前提だ。速く餅がつければ短時間でたくさんの餅が出来上がる。ふるまい餅があるイベントではありがたい。「当たり前のことが評価されてしまった感じ」と3人は話す。どこまでもクールである。
臼と杵は60年は使われてきたという。杵は磨り減り方が激しくはあるが双方まだまだ大丈夫だそうだ。「そこに臼と杵があるから、餅をつく」。3人は餅をつき続けることになる。
長浜もちづくり役場
出張もちつきについては要相談で受け付けている。
お問い合わせ
NPO法人まちづくり役場 TEL: 0749-65-3339
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
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