近代滋賀の教育人物史

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 愛荘町 2019年3月4日更新

 「いわゆる『〇〇県教育史』というような自治体発行の教育史が、全国で唯一、滋賀県にはないんですよ」と教えてくれたのは、愛荘町立愛知川中学校教頭を務める久保田重幸さんだ。全県を網羅しての教育史に関する大々的な調査・研究が、滋賀県では行われていないのだという。だからと言って、滋賀県には教育史について特筆すべきことがないのかというと、もちろんそうではない。「近代において、学校教育に先進的に取り組んだのは京都。幕末維新の動乱期を経て都が東京にうつり、将来の地域社会をどうつくっていくのかという課題を前に、人材を育てなければならないという強い危機意識があったためだろうと思います。そんな京都に隣り合う滋賀県も、早くから学校が設立され始めましたし、全国的に見てもすぐれた教育者がたくさんいます」と久保田さん。
 本書「近代滋賀の教育人物史」は、明治〜戦前において、滋賀県で教育に尽力した人物29人を取り上げたものである。編著は「滋賀県教育史研究会」。久保田さんは、その一員である。県内外の大学に所属する研究者だけでなく、久保田さんのような教員、元教員、元図書館職員といった、多様なメンバーで、学術的な研究会をめざしてきたという。本書は、「滋賀県教育史研究会」のここ10年間の研究成果でもある。「滋賀県教育史」刊行の機運を高め、いずれその基礎資料の一部になればという目的ももつ本書は、一次資料から読みとくことを徹底し、今回の研究のなかで発見された資料もあるという。
 取り上げられているのは、県令など行政の立場から教育や学校創設に携わった人物、女子教育や聾唖教育・盲教育・郷土教育などで先駆的な取り組みをした教育者など。それぞれの時代や課題に対応するための人材を育てるため、時間や私財を投げ打って学校づくりや教育に駆り立てられていったひとびとの列伝である。特に私立学校を創設した人物たちは、教育者であり事業家として経営感覚にも長けている必要があった。いまの教育現場では考えにくい感覚だと思うが、当時学校を続けるためには必然だったのだ。
 「おとなはもちろん、少し難しいかもしれないけれど小・中学生にも読んでもらえるものを目指した」と久保田さんは話す。「誰もが一度は『なぜ学校に行かなくてはいけないのか?』と疑問をもつと思います。教育のはじまりに尽力した人々には強い信念があり、そうした思いを知ることで、わかることがある。子ども達にとっても、教育史は身近な学問なんです」。
 現在を問い直し、未来を見通すために歴史を学ぶ。教育も教育史も未来のためにある。本書を少しずつ読みながら、自分が受けてきた「教育」も、少し違う姿が見えてくるような気がした。

 

近代滋賀の教育人物史

編著 滋賀県教育史研究会
発行 サンライズ出版
定価 2,200円+税
書店にて販売中(サンライズ出版から郵送による販売も可。TEL.0749-22-0627)

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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