大通寺山門に登る
子どもの頃、夏の楽しみといえば「げちゅうさん」だった。露店がずらりと並び、人ごみをかきわけてあちこちのお店をきょろきょろして、何を買ってもらおうかとわくわくした……。綿菓子はなぜか買ってもらえなかったので、大人になった今は気兼ねなく食べることができるのが嬉しい(別な気兼ねはある)。
げちゅうさんは漢字で書くと「夏中さん」で、大通寺の法座「夏中」の期間に数日催される、いわば門前市だと知ったのはずいぶん後のことだ。そして「夏中」の間に大通寺の山門の2階に上がることができ、そこに仏像が安置されていると知ったのは、更に後のことである。
大通寺は真宗大谷派(東本願寺)の別院として、教如上人が湖北門徒に仏法を説き広めるための道場を長浜旧城内に開いたのが始まりである。彦根藩主井伊直孝から寺地の寄進を受けて現在地に移り、本堂はじめ境内の建物がつくられていった。山門が完成したのは天保10年(1839)のことである。
山門は二重の屋根がある重厚なつくりになっていて、左右の山廊に階段がある。2階は板張りで、釈迦如来を真ん中に弥勒菩薩と阿難尊者の像が安置されている。山門に像を置くのはもともと禅宗の建築様式だが、江戸時代になると宗派を超えて広まっていったようだ。
ところで浄土真宗のご本尊は阿弥陀如来である。山門に釈迦如来像があるのはなぜなのか、気になった。長浜市文化財保護センターで教えていただいたところ、三尊仏の姿は、浄土教の経典のひとつ「無量寿経」のワンシーンを切り取ったものなのだという。阿難尊者は、お釈迦さまの十大弟子のひとり。阿難尊者がお釈迦さまや弥勒菩薩と対話していくなかで、阿弥陀如来の功徳を説かれるというシーンなのである。三尊仏の頭上にある天井画も含め、いわば、山門そのものが浄土真宗の教えを現している。
ちなみに大通寺の山門は東本願寺の山門を模したもので、東本願寺の上層にも同じ組み合わせの釈迦三尊像が安置されているという。
板間の周りは回廊……、風が吹き抜けむっとした暑さから解放される。大通寺の境内が一望でき、長浜のまちなみが見渡せる。高所好きにはたまらない眺めである。
山門の建立にあたっては地域の人々が地搗きに参加するなど、総協力体制で作業を進めたと伝わっている。当時の人々が山門のもつ意味をどれほど意識していたのか、どれほどの頻度で山門に登ることができたのかは、わからない。けれど、風を感じてまちを眺める気持ちの良さはいつだって同じに違いない。
今年ももうすぐ夏中さんの季節がやってくる。賑わうまちを楽しむと共に、山門に登り、少し心静かな時間を過ごそうと思っている。綿菓子は、その後の話である。
大通寺
滋賀県長浜市元浜町32-9 / TEL: 0749-62-0054
・山門2階への拝観
毎年7月3日〜10日と10月23日〜26日(報恩講中)
10:00〜15:00 / 拝観冥加金100円以上
・夏中…………7月2日〜10日
・夏中さん……7月2日〜5日
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
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