まちライブラリー 植本祭
人と本とまちをつなぐ
誰かが手放した本を、またべつの誰かに渡す、いわば古本屋という小商いをしている。引き取り、手入れをし、棚に並べ、誰かが手に取るのを待つ。そんなことを繰り返していると、「この本はどこから来て、どこへ行くのかな」と思うことがある。前の持ち主が古本屋で買った本を引き取ることもあるし、戦前にアメリカで買われた本を滋賀で引き取り、東京で売ったこともある。本は、人の手から手へ渡る旅をしていて、私はたまたまその一部を知る。本の孤独な旅について、ときどき思う。
ところで、店の一角には一時、「雲文庫」という貸本コーナーがあった。古本を売る一方で、「売りたくないけど誰かに読んでほしい」という本もあり、知人に提供してもらった本や自分たちの本を並べていた。本の貸し借りをもっと広く楽しくできないかという、ひとつの実験だった。近頃、出版不況だとか本を読まない人が増えたという嘆きも聞くけれど、私設図書館やブックカフェなども新たに開かれるようになってきて、本との付き合い方についての試みが目につくようになった。
さて過日、彦根市中央町にあるサイクルカフェ「.5cafe」で「植本祭」が行われ、「彦根まちライブラリー」が誕生した。
まちライブラリーは、お店や待合室などの一角に本棚を設け、そこにひとびとが一冊ずつ本を持ち寄って蔵書をつくっていくという仕組みの図書館だ。本を持ち寄るイベントを植本祭といい、お茶をしながら、自分の持ってきた本を紹介する小さなイベントだ。
大切なのは、「感想カード」を付けること。植本された本にはブックポケットを付ける。まず植本した人は、その本が自分にとってどんな本なのか書いて、ブックポケットに入れる。その本を借りたひとは、同じカードに感想を書いて返却。そうして感想が連なっていけば、本を読む新しい楽しみになっていく。そして、一冊の本で知らない人同士がつながることができる。
まちライブラリーは、2011年、礒井純充さんが提唱し、大阪で始まった取り組みだ。全国に広がっており、各地のライブラリーの蔵書はインターネットサイトで管理することができる。そこで情報を公開していれば、よそのまちに住む人の探す本として、わたしたちのまちの本がヒットするかもしれない。その人が彦根に訪れて本を探し当て、本を開くと、そこにはなぜこの本がここにあるのか、そして読んだ人の感想が書かれたカードが入っている…そんな話も生まれるかもしれない。
今回、.5cafeでは「わたしと彦根」というテーマで7人が13冊の本を植本した。とても小さな始まりだったが、とても満ち足りた会だった。この感覚はなんなのか、会を重ねて、いろんな人と経験しながら考えていきたい。
本には、書いた人だけでなく、手に取った人がいる。そのひとりひとりになにがしかの物語がある。その物語がつなぎとめられた本は、孤独な旅を終え、まちの一員になっていく。
彦根まちライブラリー .5cafe
滋賀県彦根市中央町7-40
開館日・時間:9:00〜18:00 不定休
まちライブラリーにご興味のある方は、彦根まちライブラリー事務 TEL: 0749-26-1201(半月舎内・担当 御子柴)へ
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【はま】