五本の川が始まるところ

米原市間田

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 米原市 2009年3月22日更新

 雪解けの季節。伊吹山の麓を流れる姉川の側を走っていた。この冬は、湖北地域でもほとんど雪が降らなかったから、これから農繁期を迎えるにあたって水不足が少し気になっていたのだけれど、集落の中を流れる水路が浪波と湛えている様子を見る限りでは、杞憂に思える。上流から下流へ、勢いよく流れる水面を眺めていて、ふと、知人の言葉を思い出した。

 「伊吹山の麓に五本の川が始まる場所があるよ」。

不思議なことを言うものだと思った。どの川にも始点があり、一滴ずつ零れる湧き水だったり、奥山に溜まった雨水だったり……、大河となって琵琶湖に注ぐ姉川もまた、小さな湧水が集まるところから始まっているのだ。
 しかし、どうやら、そういうことではないらしい。「川の生まれるところ」ではなく「川が始まる場所」である。しかも、それは人跡未踏の森の中ではなく、田んぼのど真ん中であるという。ますます不思議な話だった。
 知人の話では大字間田(はざまた)にそれはあるらしい。


ここが川が始まるところ

 伊吹山の西側は、主要河川である姉川に削られて渓谷を作っている。姉川が川幅を広げる山裾では、他に主要な水源がないことから、生活や農業に必要な水を得るために様々な伝統的工夫が見られる地域になっている。河川を人工的に仕切り、集落や田んぼの中に水を通すようにした特徴的な分水工が多い。
 僕は小田(やないだ)分水工をスタート地点に、そこから分岐した川沿いに下流の間田を目指すことにした。舗装道路沿いに流れていた水路はすぐに田んぼ地帯に曲がり、あぜ道の中を走ることになる。車一台分の幅しかない農道で、対向車が来ないことを祈りながら進むと、やがてそれを見つけることができた。
 一本の水路にコンクリートで仕切りをし、五本の水路に分岐させた分水工である。分かれた水路の出口には、それぞれ名札が付けられていた。『天満川』『柏戸川』『中村川』『市場川』『朝日川』……。元は一本の水路が、五方向へ流れ出ている。再び混じることはない。まさに、「川が始まる場所」。知人の台詞の真意を知ることが出来た。


天満川の名札

 川の始まりに名札がつけられているのは珍しい。調べてみると、この間田五川分水工は、中世の荘園時代から続く農業用水で、周辺の人たちが仲良く水を分け合うために作られたものだそうだ。それが現代でも補修されて、受け継がれている。
 辺りは、今は枯れたような景色が広がっているけれど、一ヶ月もしないうちに苗が植えられ、息を吹き返したように柔らかい緑に覆われるのだろう。伊吹山麓で、昔から一年に一度繰り返す風景だ。

 僕は、知人に「五本の川が始まる場所に行ってきたよ」と報告した。知人の答えは「隣の井之口にはサイフォン式の円形分水工があるよ……」だった。
 サイフォン式ってなんだろう?どうやら、伊吹山麓の水路は奥が深いらしい。

めめ

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