賤ヶ岳トンネルのビル?
トンネルを抜けると、一変する景色に驚くことがある。国道8号線の賤ヶ岳トンネルもそのひとつだ。山が迫る木之本町大音側から山梨子側に出ると、奥琵琶湖の湖面が光っている。
このトンネルの帰りのコースでいつも気になっていたことがある。山梨子側の入口にトンネルと一体化するように「ビル」が建っているのだ。交通量の多い国道を横断するための屋内通路かとも思ったのだが、歩道はビルの裏側を通っていた。国道を管理する滋賀国道事務所彦根維持出張所に聞いてみると、こういうことのようだ。
よく、長いトンネルを走ると、上部に大きな扇風機のようなものがついている。ジェットファンといって、トンネル内の換気のために設けられているものだ。ジェットファンがない賤ヶ岳トンネルの場合、あの建物がその役目を果たしている。建物内にプロペラがあり、屋上部分から空気を吸い込んでトンネルに送り込んでいるのだという。つまり建物自体が大きな扇風機という訳だ。プロペラはトンネル内の一酸化炭素の濃度や視界に応じて作動するということだった。
このビルを見下ろせる地点がある。木之本町飯浦から賤ヶ岳隧道(旧の賤ヶ岳トンネル)へ至る手前辺りだ。隧道の銘を見ると貫通は大正末期とあった。レンガを積んだ入口は歴史を感じるに十分である。バスで賤ヶ岳のリフトに乗りに行った経験のある人には懐かしいトンネルだろう。
ビルのプロペラが見えるかも……という期待は外れたが、隧道の山梨子側入口付近から水が湧き出ていた。丁寧に水受けの桶まで添えてあるということは、この水を利用する人がいるのだろうか。水の勢いがやたらに際立っている。
隧道に至る道から見る奥琵琶湖は、相変わらず絶景である。道沿いには桜の木が並んでいる。次に来るときはコップ持参で湧水の味を確かめつつ、奥琵琶湖の春を満喫したいと思っている。見上げて、見下ろしてみることで、思わぬ景色を満喫した一日だった。
【椰子】