官兵衛の影武者たち
秋の始まりの気持ちよい風に吹かれながら、木ノ本駅前から地蔵坂商店街の方へと歩く。バスガイドさんが掲げる旗について、団体客がぞろぞろと坂を登っていく。旗の先がさす空は高く澄み渡っている。行楽日和だなあと思う。
商店街から少し北に位置する木之本町黒田は、黒田氏発祥の地と言われている。今年は「ながはまの官兵衛 大河ドラマ館」が開設され、商店街には、「軍師官兵衛」にちなんだ商品を開発し、今年から販売している店が多い。それぞれの軍師官兵衛を訪ねてみた。
和菓子屋「はとや」さんでは、当店の名物「でっちようかん」に大きなクルミの実がごろごろと入った「軍師ようかん」を開発。はとやの小森久子さんは、「クルミは戦国時代にも食べられていた食材ですし、栄養価も高いですから、官兵衛さんも食べていたのでは…」と話してくれた。「軍師官兵衛はどんなものを食べていたのか?」という想像が楽しい。
和菓子屋「菓匠禄兵衛」さんでは、官兵衛の有名な赤い合子形兜があしらわれたデザインのパッケージに包まれた「本之木餅」。「もとのきもち、という商品ですが、その心は、ほんのきもち(気持ち)です」と、パッケージのデザインに携わった西澤奈都美さんが教えてくれた。地域の歴史に関連するパッケージ、気のきいた名まえ。地元の方のお使いものによく利用いただいてますとのこと。なるほど訪問先で、きっといい話のたねになる。
良質の水に恵まれた木之本では、古くから醸造業が盛んで、現在でも、醤油屋や、酒屋が散見される。「でも、昔はもっとたくさんあったんですよ」と教えてくださったのは、「黒田せんべぇ」を販売する醤油屋「ダイコウ醤油」の大杉明子さん。とろりと濃厚で甘味な当店のたまり醤油を用い、焼いてもらっているという。煎餅の割れ目にしみ込んだ醤油が一層香ばしく、醤油煎餅好きにはたまらない。味はもちろん、「黒田せんべぇ」という名まえがうまいなと思っていたら、「つるやパン」さんでは、「黒田パンべぇ」というパンに出会った。
ブラックココアを練り込んだ黒いパンの上に、トマトペーストを練り込んだ赤いクッキー生地のパンが載っている異形は、兜をかぶった官兵衛の姿。パッケージには「べぇ」と舌を出した武将のイラスト。そんな見た目だがパンそのものは菓子パンで、中には、季節ごとの餡が入り、10月以降は栗味の餡が予定されている。「『軍師官兵衛』を放映している今年の間だけ、木之本の本店だけで販売。色々な工夫を凝らしているので、ぜひ木之本に来て見てほしい」と、考案者の西村洋平さん。「黒田パンべぇ」は黒田官兵衛の影武者で、官兵衛を応援しているという設定なのだそうだ。いい話だ。「べぇ」をしているパンべぇがいいやつに見えてきた。
パンべぇ氏だけでなく、官兵衛を応援する影武者たちがそこここにいる商店街。官兵衛を訪ねるつもりが、影武者ばかりを訪ねてしまったようだ。でも、行楽日和にぴったりの訪問だった。
- 軍師ようかん(280円)※保存料を使用していないため、夏は販売なし。10月から再開。
- 本之木餅(140円)
- 黒田せんべぇ(680円)
- 黒田パンべぇ(165円)
- 酒粕飴(390円)
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【篋】