こども館長の一日
スミス記念堂
日曜日、彦根城のお堀端にある和風建築のキリスト教教会「スミス記念堂」へ行った。キリスト教の信者ではない私が教会へ足を運んだのは、礼拝や集会のためではない。記念堂を開けている近藤一家と「こども館長」に会いに行った。
「こども館長」こと近藤七生(なお)ちゃんは3歳。土日祝日の朝10時頃、スミス記念堂へやってくる。まずは堂内をモップがけし、清掃する。それから、堂内や庭でコロコロと楽しげに遊んでいる。主な仕事は、教会を見に来た人や人力車に乗った観光客に「こんにちはー」と手を振り、あいさつをすることだ。建物の中を見学する人にはパンフレットを渡し、扉に彫られた彫刻について、「これは松、これは竹、これは梅…」と解説することもある。まるいほっぺたの館長に出迎えられて、来館者の顔がついほころぶ。1歳の妹で「副館長」の悠里ちゃんもトコトコ歩いている。
スミス記念堂は、牧師パーシー・アルメリン・スミス氏が、両親を記念し、昭和6年に建設。建立に際しては、スミス氏が多くの私財を投じただけでなく、多くの彦根市民や日米の篤志家の支援があったという。平成に入り、道路の拡幅によって記念堂解体の危機にさらされたとき、彦根市民の運動によって、再建された。その後はキリスト教の教会としてではなく、公園や観光スポットとして名所となっている。現在、建物の管理や来訪者への対応をしているのが、近藤紀章さんとその家族というわけだ。
七生ちゃんがスミス記念堂へ来るようになったのは、2年前、生後10ヶ月ころから。週末には記念堂を開けるお父さんやお母さんに連れられて、記念堂で過ごすことが恒例となった。彦根城がよく見える出入り口に向かってハイハイの練習をしていた七生ちゃんは、今では彦根城の時報鐘が12回鳴るとお昼ごはんを、3回鳴るとおやつをせがむようになった。近所の子どもたちとも仲良くなり、時々、子どもたちが記念堂へ遊びに来るようにもなったそうだ。
スミス氏は、彦根と彦根城をこよなく愛していたという。記念堂も彦根城を借景とし、自らデザインした建物にも、彦根城をモチーフとした箇所が見受けられる。和洋が美しく折衷した意匠、こじんまりとしながらも明るくあたたかな建築は、宗教の如何にかかわらず、訪れる人を惹き付ける。彦根高等商業学校の英語教師でもあったスミス氏は、教会活動だけでなく、教育の機会なども記念堂で設けたという。「礼拝堂」ではなく、「記念堂」と名付けたことにも、宗教施設を越えた役割を考えてのことだろうか、などと思ったりもする。そう思うと、宗教にとらわれず、人々が訪れるようになっている記念堂の行く末を、スミス氏が見守っているような気がしてくる。
さて、こども館長は昼ごはんの後にお昼寝の時間ということで、お暇することとした。「また来てねー」と手を振るこども館長。日曜日、礼拝の作法は知らないけれど、行くことができる教会があるのはなんだかうれしい。
スミス記念堂
滋賀県彦根市本町三丁目
開館 土曜日・日曜日・祝日(12月〜3月上旬は休館)
時間 10:00〜16:00
※こども館長は、出勤していない場合があります。
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【はま】