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淡海の妖怪

オタマサン

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2014年2月10日更新

 彦根市高宮町周辺に「オタマサン」という妖怪がいたことを聞いたのは2007年のことだった。漢字で書くと『お玉さん』若しくは『お珠さん』となるのだろうか……。
 春先、風の強い日、どこからともなくふわふわと白い毛玉が飛んできた。綿毛みたいなものの先が金色をしている。縁起がいいと、神棚に置いておいたりするのだという。20年から30年くらい前の話だと聞いたから今からすれば30年から40年前のこととなる。「まだ、あるかもしれん……」とその人は探してくれたが、何処かに「オタマサン」は失われていた。
 全国的には「ケセランパサラン」という名の妖怪で、「オタマサン」は高宮でのローカルネームだ。
 ケセランパサランは、風に乗ってフワフワと民家の庭先などに下りてくる。白粉(おしろい)と一緒に箱の中にいれておくと、毛先を伸ばして食べたとか、白粉の上に移動した跡がついているとか、いつの間にか増えるといわれている妖怪である。見つけた人の中には白粉を入れた桐の箱でこっそり飼う人もいた。飼っている間、家は幸運に恵まれるが、やがてどこかへいなくなってしまうというのが定説である。
 ケセランパサランをそう易々と捕まえることなどできるはずがないと思っていたが、オタマサンの証言者に僕は複数人会ったことがある。高宮の日常にオタマサンがフツーに居たということに驚く。
 ケセランパサランで面白いのは どこからともなく飛んで来て、いつのまにかいなくなる という点だ。いずれいなくなってしまうことが前提で、人間の前に現れる妖怪なのだ。他所から飛んできたそれを見つけた時点が幸運なのであって、いなくなっても不幸ではない。おそらく、姿を消すまでがケセランパサランやオタマサンの役割なのである。
 オタマサンは絶滅したのではない。忙しさにかまけ、それを見つけられる機会を失ってしまっただけなのだ。
 春先、ゆっくり空を見上げてみようではないか。再び、オタマサンにであうことができるに違いない。

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