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淡海の妖怪

彦根市馬場町 白馬の首

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2014年1月20日更新

 『彦根藩士族の歳時記 高橋敬吉』という書籍がある(藤野滋編・サンライズ出版)。彦根藩士族の家に生まれ、井伊家家庭教師だった高橋敬吉が、大人になるまで暮らした彦根の様々な記憶を綴ったものだ。明治10年〜20年代の彦根の風俗習慣を記録した内容となっている。
 その中には「白馬の首が出る」、「釣瓶下し」の文字とその次に「雨降りの晩に一ッ目小僧が徳利さげて酒買いに来る」のフレーズがあり、実に面白い。
 明治の初め頃、夏休みに子ども達が集まって盛り上がっていたのは稲荷神社の境内で、そのまま引用すると「仕方なく観音堂筋へ廻るには、先の話の釣瓶下しや白馬の首の出る処を通らねばならず」とある。彦根市馬場町辺り、瘡守(かさもり)稲荷神社から観音堂筋までの間だと見当はつく。
 水木しげる『日本妖怪大全』に「馬の足」という妖怪が紹介されている。古塀から枝をさし出している木の枝から下がってくるというもので、気づかずに通りすぎようとすると馬の足に蹴飛ばされるというものである。暮らしが馬と共にあった時代に出現した怪異である。
 「白馬の首」は藩士たちが暮らす城内に出る妖怪として彦根らしく、藩士たちは馬に蹴られるということがあまり無かったのかもしれないが、「白馬の首」が塀から出てきてじっとこちらを見ている……という状況は蹴られるよりも怖い。ギョロリと目が動きでもしたら、息が止まるほどに違いない。
 ところで、もうすぐ立春。2月3日は節分である。『高橋敬吉 彦根藩士族の歳時記』には、節分の悪鬼「聞鼻(かぐはな)」の話も出ている。節分の晩に聞鼻は出てきて「各家を巡って女子供を攫(さら)って食べるが、この鬼は鰯の臭いが大嫌いで、無理に家の中へ入らんとする時、柊の葉で目を突くのだ」とある。僕は、節分の鬼の名前が「聞鼻」だとこの本で知った次第である。

参考文献

  • 『【図説】日本妖怪大全』水木しげる著 講談社+α文庫
  • 『彦根藩士族の歳時記 高橋敬吉』藤野滋編  サンライズ出版
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