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淡海の妖怪

竹やぶ老人 — 山東町

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 米原市 2020年3月5日更新

 旧・山東町の伝説を集めた『続・山東昔ばなし』に「竹やぶ老人」が収録されている。妖怪としてではないが、妖怪っぽいので紹介しておくことにする。こんな話である。
 むかし、山東町内の路上で、白髪が肩よりも長く、杖を手にした見知らぬ老人の姿がたびたび目撃されたことがあった。その眼光は鋭く、人の心の内側まで見通すようだった。それがどこの誰なのかまったくわからない。それどころか、幾世代にもわたり老人は同じ姿で目撃されていた。
 いつしか人々は、あの老人は特別な存在で、竹やぶの中など俗世から離れた場所でひっそりとした庵を構えて住んでいる尊い人だろうと噂するようになり、誰からともなく、「竹やぶ老人」と呼ぶようになった。
 この「竹やぶ老人」には不思議な力があり、出会った人の家族の病気が治ったり、仕事が上手くはかどるようになったのである。「竹やぶ老人」に出会えば幸運が訪れる……、ならばよく目撃される場所で待ち伏せて自分もその御利益にあずかろうという考えをもつ人も中にはいた。しかし、下心がある人の前には絶対姿を現さなかったそうである。
 出会うこと自体が幸運の前兆なのである。幸運をつかむに値する人にだけ、姿を現してくれるのかもしれない……。
 日本では、何か物事が起こる前触れのことを「ミサキ」と呼んで、畏れ敬うという信仰がある。それは、不吉な風であったり狐や狸などの動物の姿であったり、見知らぬ人間の姿であったりする。「竹やぶ老人」もミサキのような存在であるのだろう。
 しかし、「竹やぶ老人」は姿をみせなくなってしまう。人間側にそれを幸運と気づく感性がなくなってしまったのではないだろうか。まだ、淡海のどこかにいて、幸運をつかめる人を見極めているのに違いない。

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