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淡海の妖怪

目一つ坊・茄子婆

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2019年12月31日更新

 青坊主という淡海の妖怪がいる。「一つ目の妖怪で、寺の坊主姿をしている。妖怪画家の鳥山石燕に〝青坊主〟と名付けられるが、本来は〝目一つ坊〟と呼ばれる。今から千年ほど昔、京都の東にある比叡山の延暦寺という大寺に、慈忍和尚というえらいお坊さんがいたが、弟子がなまけ者だったので、死んでからは一つ目の妖怪になり、修行をなまけている弟子がいると、鉦を『カンカン』と叩き、そのぶきみな一つ目でにらみつけたといわれる」。これは、2001年に発売された食玩「妖怪根付」にあった解説で、『百鬼解読』の著者多田克己氏が担当している。慈忍和尚は、 第18世天台座主 慈恵大師(元三大師良源)の高弟である。修行道場「総持坊」の玄関にある、僧衣を纏い、単眼、一本足、左手に鉦を右手に杖を携えた「目一つ坊」の絵は、慈忍和尚の護法の姿だという。
 比叡山延暦寺大書院で行われていた「ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展」の最終日に意を決して出かけた。
 七不思議は、東塔エリアの「幽霊の鉦」「茄子婆ァさん」「靄舟」「美人の水ゴリ」、西塔エリアの「一文字狸」、横川エリアの「掌に乗った大蛇」「六道おどり」の伝承をいう(七不思議の名称は『近江昔話』による)。 「幽霊の鉦」が、目一つ坊、即ち、青坊主の話だ。いままで写真でしか見たことがなかった慈忍和尚の護法の姿も観ることができたのだが、「自分がこの世を去った後も仏法が廃れないよう、比叡山が廃れないようお守りする」と誓いをたてていた高僧を何故、単眼、一本足に描く必要があったのか……。理解するにはまだまだ勉強が必要である。
 七不思議のなかで興味を持ったのは「茄子婆ァさん」である。「茄子婆」とも呼ばれている。織田信長の比叡山焼き打ちの夜、大講堂の鐘楼の鐘を撞き、信長勢の来襲を知らせた茄子色の顔色をした妖怪だ。かつて「南光坊」(現在は石碑のみ)という坊舎に出没した妖怪で、宮中に仕えていた位の高い女官だったそうだ。生肉が好物で、人目を避けて殺生した報いから死後、魔界に堕ち、妖怪になったと伝わる。ただ、生前から悪行を悔やみ、信仰を続けたので、心は比叡山に住むことが許されたのだという。大講堂の鐘楼は昭和31年に消失したが再建され、現在は誰でも撞くことができる「開運の鐘」として親しまれている。
 初詣に出かけるとしたら、茄子婆の鐘を撞くのも悪くない。 

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