淡海の妖怪

雷獣と釣瓶落とし

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 東近江市 2019年3月7日更新

ふじこめさん(富士神社・封込神社)

 「雷獣」。その名は『湖の伝説』(梅原猛著作集16・集英社)で知っていた。いつか今代の富士神社に行くことになるだろうと思っていたが、今年の2月、夕方から急に冷え込み、強い風が吹いた日、25年を要して、ようやくその場所に辿り着いた。
 『湖の伝説』には次のように書いてある。夭逝の画家三橋節子の人生や彼女が描いた遺作「雷獣」の背景を記す必要はあるが、「雷獣」に関するほんの一部だけを抜粋しておく。
 「彼女は、この場合も、ストーリーを『近江むかし話』からとった。『近江むかし話』の中に雷退治の話が二つあり、この二つを総合して雷退治の童画をつくろうではないか。」「あの雷は、雷神の仕業であると言い伝えられてきましたが、その手引きをしている雷獣のいることをご存知の人は少ないと思います。」「この二つの話は、一つは、西近江の比良山の谷間、安曇川町の上小川に、もう一つは、東近江の近江盆地の中央、八日市市の今代に語り伝えられた話で、別なものであるが、節子は、その二つの話を一つにして」「明らかに節子の改作は、二つの昔話のうち、前の話より後の話の筋を、より多く踏襲している。」
 八日市の今代は、現東近江市今代町である。集落の外れに富士神社があり、「雷封じの宮由緒」の石碑があり昔話が記してあった。三橋節子がより多く踏襲した話である。
 「昔 この今代の集落は 毎年夏が近づくと雷の集中攻撃を受け 人畜の被害は数えきれなく 人々は困っていました そんなある日 旅の修験者が集落にさしかかったところ 妖気が集落全体を覆っているのに気づき 不思議に思った修験者はそのわけを聞くや はたとうなづき これは雷獣の仕業であろう 雷獣は天界に棲み雷を呼ぶ力を持っている たまたま地上へ舞い降り棲みついたのだろう そこで修験者は 村人に大きな麻の網を用意させ 森に仕掛けました 夕方 雷雨が激しく森をたたきつけた時 一匹の獣が現れたので修験者は綱を引きました 捕まった獣は赤黒く 頭や顔は犬に似ており くちばしは黒く 尾は狐のように垂れ ワシのような鋭い爪をもっていて 奇妙なうなり声をあげて暴れまわっていましたが 捕まって雷を呼ぶ力を失ったのか やがて雷雨は遠のいて行きました
 その後 雷の被害はなくなり 村人はこの森に雷を封じ込めたということで そこに社を建てました それが現在残っている富士神社(封込神社)だということです」
 神社横の長寿院には雷獣のミイラもあったという。
 富士神社の前で写真を撮っているとき通りかかった男性と視線が合った。怪しい者ではないことをわかってもらう必要があった。おかげで、今代では昔からこの神社を「ふじこめ(封込)さん」と呼んでいること、「富士山本宮が木花之佐久夜毘売命(木花開耶姫命)〈このはなのさくやひめのみこと〉を祀っており、ふじこめさんの主祭神も同じであるから何時の頃からか富士神社というようになった」こと、「50軒ほどあるなかの15軒が氏子である」こと、「ミイラは見たことがない」、「一年に一人くらいが、ふじこめさんを見に来る」こと……がわかった。僕は今年の一人目である。
 さて、雷の集中する理由を雷神を操ることができる雷獣に求めているところが面白い。手の届かぬ天空から、姿形を具体的にし捕まえることができる地上へ引きずり降ろしたのだ。
 ところで、東近江市北菩提寺町の城跡に大きな槻があり「釣瓶落とし」が出没したという話が伝わっている。本来、釣瓶落としは釣瓶が高い枝から落ちてくる現象で、人を驚かせたり攫っていく妖怪である。枝の上はどうなっているのか、どうやって上がり下がりするのか…その辺りはよくわかっていない。ところが、北菩提寺の釣瓶落としは天狗が枝の上で釣瓶を操り子どもを攫っていくと明らかになっている。
 雷獣にしても天狗が落とす釣瓶にしても、理解できない現象を、更に理解できないものと組み合わせて納得する。淡海の妖怪は素晴らしいと思うのである。

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