湖畔のまちの古書店

さざなみ古書店

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2011年11月18日更新

さざなみ古書店

 中村恭子さん(61)は、ふらりと旅で訪れた長浜に一目で惚れて、北九州市から移り住むことにした。一目惚れだから多分、理由は無い。このまちで暮らしたいと思い、前々から淡く抱いていた古書店をしたいという願望が形になり、今年9月、長浜のまちなかに「さざなみ古書店」を開いた。中村さんが長浜に移り住んで8ヶ月が過ぎた頃だった。
 「きっと幸せになりたいと強く思っていたから。その思いがチャンスや出会いを引き寄せたように感じています。幸せであるというのは、自然な自分でいられるということ。それが、本に囲まれている場所だったのでしょうね」。

店主の中村恭子さん

 文学書、美術書、写真集……。本だけではなく、版画、アンティークの食器、陶器、アフリカの民具などが並ぶ。古書店の品はほとんどが中村さんの私物だったものだ。どれくらい蔵書があるのかを尋ねた返事は、「途中で数えるのを諦めてしまったくらい」だという。

 「私が生きてきたなかで、うつくしい、楽しいと感じてきたものをこの場所を介して伝えられればいいですね。私自身は、これまで手元に寄せ集めたものをゼロにしたいんです。所有せずとも、形がなくとも、大丈夫だと信じられるようになったんです」。
 中村さんにはあこがれの古書店主のイメージがある。東京で過ごした学生時代に会った「古本屋のおばあさん」なのだそうだ。「本棚の向こうのおばあさんは毅然として格好よかったんです。買わないなら触らないでちょうだいって叱るような。私はそんなおばあさんには程遠いですが……。いろんな人が来られて、いろんな空気を置いていってくださるので客間みたいになってます」。

古書店の品はほとんどが中村さんの私物だった

 琵琶湖に、中村さんは毎朝会いに出かける。玄海灘に近いまちで生まれ育った中村さんにとって海と琵琶湖はまったく違うという。「海はときどき怒るんです。でも湖は吸い込んで引き取ってくれる、受け入れてくれる感じがします」。
 お店の屋号も、琵琶湖畔の印象にちなんでいる。道路から店内までの廊下のような空間の床に、青と白のペンキを塗った板がモザイク状に貼ってあるのも琵琶湖のさざなみをイメージしたものだ。
 私も「途中で数えるのを諦めてしまったくらい」ではないが、部屋に本を並べている。それらは時を経て古くはなっているが、未だ古書ではない。中村さんに会いに行こう。背表紙に、幸せになる方法が記された、古書店である。

さざなみ古書店

滋賀県長浜市元浜町14-23 / TEL: 080-1723-0987
営業時間 12:00頃〜17:00頃(土日は10:00頃から)
定休日 木曜日

誰かに譲りたい本があればお預かりします。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

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