ヴォーリズ建築のカフェで過ごす

Yeti Fazenda

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2010年9月23日更新

お店の前にはアウトビアンキ A112

 彦根市日夏町の静かな家並みに、70年以上前、日夏村役場として建築された建物がある。設計・監督は、各地に名建築を遺したウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏が率いたヴォーリズ建築事務所だ。当時は最先端の建物も、歳月に洗われ今はすっかり風景に馴染んでいる。役場から公民館、農協などへと変遷したこの建物の一画に今年4月、カフェ「Yeti Fazenda(イエティー・ファゼンタ)」がオープンした。愛荘町にお住まいの打出拓さん綾子さんご夫妻が営んでいる。
 店内には、日本を代表する工業デザイナー柳宗理の代表的なプロダクトやカトラリー、コーヒー器具メーカー「KONO」の製品が展示され、販売もしている(一部非売品)。竹久夢二の画集、お店の前には名車(と後で知った)アウトビアンキ A112……。拓さん綾子さんが何を良しとしているのか何を排除しているのか、解る人には解るといった具合だ。
 拓さんは、東京や大阪でコーヒーに関わる仕事に就いてきた。名刺には「SCAJコーヒーマイスター」とある。お店の奥には豆の自家焙煎の機械も見える。
 「どれだけ高価な豆を使ったとしても、結局は飲んだときおいしいか、おいしくないかですよね。味の感じ方は人それぞれだから、こだわりを主張するのではなく、その人に合うコーヒーをと思っています」。

コーヒーを淹れる打出拓さん

 拓さんがお客さんに確認するのはコーヒーの濃さぐらいだ。
 「人それぞれに好みの濃さっていうのがあるんです。コーヒーも出汁と同じと考えてください。味のベースがきちんとあれば、あとは濃さの調整なんです」。
 注文したコーヒーはコーヒーサーバーに入って出てきた。およそ一杯半ほどはあるだろう…、たっぷりなのがうれしい。カップやソーサー、カトラリーも柳宗理デザインだ。コーヒーの濃さは、良いあんばい!窓際に並ぶ文庫本と共に過ごした。自分の好みやコーヒーの濃さがこれくらいなのかと改めて知った。
 ところで、「Yeti(イエティ)」は雪男、「Fazenda(ファゼンタ)はコーヒー農園を意味する。「雪男」は「シアワセ男」と読む。偶然にも、綾子さんのお父さん「幸男」さんに繋がり、喫茶店をしたかったというお父さんの夢に繋がった。そして、Fazendaは拓さんがつけたかった名前で、建物がかつて農協だったことに繋がっている。
 歳月というのは不思議だ。70年も、ご夫妻が培った時間も、コーヒーを味わうひとときに、私の時間が溶けていく……。

Yeti Fazenda

滋賀県彦根市日夏町2908-5 / TEL: 0749-28-3539
営業時間 10:00〜18:30 / 定休日 水曜ほか

ブレンド 420円、アイスコーヒー 450円、紅茶 420円〜、ハーブティー 450円など / お弁当ランチ(11:30〜限定20食)1,050円 / 綾子さん手づくりの焼き菓子類もある / コーヒーの淹れ方教室なども月に一度開催

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

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