天然ビワマスの寿司に出会う
京極寿司
好みの寿司ネタは? ツナ何々、アボガド何々…、寿司ネタも随分と多様化している。しかし、地産地消の言葉が一般的になった今でも、鮒寿しなど湖魚の熟れ寿しは別にして、湖の魚をネタにした寿司の登場はまだ無い(出会ってないだけかもしれないが……)。
長浜の老舗寿司店「京極寿司」では、この夏からビワマスを使った寿司や刺身が登場した。「地産地消の取り組みが盛んですが、海のない滋賀県の寿司店で地産地消を掲げるのは難しいのが現状でした。実際、うちが魚を仕入れているのは金沢の市場からです。琵琶湖の固有種であるビワマスを使うことで、滋賀ならではの寿司として定着すればと期待しています」と3代目の眞杉国史さんが教えてくださった。
ビワマスは秋雨の降り続く頃、生まれた川を産卵のために群れをなし遡る。古くから「アメノウヲ」、「アメ」と呼ばれ親しまれているサケ科の魚だ。琵琶湖を海のように生き、進化してきたのだろう。冷水域を好むビワマスは、琵琶湖で最も深い竹生島あたりが良い漁場である。流通量は極めて少なく、地元でもなかなか口にするのが難しい「幻の魚」と言われている。
「うちでは天然ものはお造りや握り寿司、養殖ものは酢でしめるなどして箱寿司や焼き物に、と使い分けようと考えています。マス類は、殺菌のため一度冷凍するのですが、解凍しても鮮度や風味が損なわれない魚として知られていますから、旬をはずれても天然のビワマスを美味しく召し上がっていただけると思います」。
県の水産試験場が養殖に成功し年間を通じて安定した供給を見込めるようになったのだ。体長25センチ以下のビワマスは捕獲が禁止されているので、食べることができるのは養殖されたものだけということになる。
天然のビワマスは大きなもので70センチを越え、刺身は極上のトロのようだという。特に、6月から9月の脂がのったビワマスは極みつきなのだそうだ。
「とにかく食べてみてください。独特の匂いなどを想像して敬遠されがちな琵琶湖の魚のイメージも一変しますよ」。琵琶湖のトロともいわれるビワマス……、本当に驚いた。ちょっとした感動だった。眞杉さんは、にっこりというか、私の予想通りの反応を楽しんでおられるようだった。
ところで、ビワマスは、目が良いことでも知られ、網が見えるのか月夜の日はかからないそうだ。単純にして明快、既にビワマスの虜になった私は、初秋の美しい月を愛で、大漁を祈るばかりである。月夜にビワマス。贅沢な話なのかもしれない。
京極寿司
滋賀県長浜市元浜町6-11 TEL: 0749-62-3265
営業時間 11:00〜21:00 / 火曜休
ビワマス 握り一貫300円・箱寿司一貫200円。
お店の定番には、鯖寿司(1本2,100円)や人気のネタを集めた「京極寿し」(2,100円)などがある。
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
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