釣りとくらしをつなぐ

　滋賀は釣り人が多い。雨の日も風の日も、橋の上で、港湾で、琵琶湖で、誰かが釣り糸を垂れている。何が釣れるんだろう……釣り堀で遊んだことがある以外は釣りらしい釣りをしたことがない私にとって、釣りは近いようで遠い世界だ。
　そんな私が今年4月にオープンしたという釣具店「LUCK FISHING & LIFESTYLE」を訪ねることになったのは、店主の椋田真志さんにたまたまお会いする機会があったからだ。「自宅の玄関先のトレーラーハウスで釣具屋をしているんです」と聞き、それだけですっかり興味を持ってしまった。
　伺った日はお天気のいい日で、店を目指して住宅街を歩いて行くと、深いグリーンの小さなトレーラーハウスの日陰にテーブルを出し、椋田さんは本を読んでいた。なんとも気持ちのいい様子だ。
　木の扉や窓の造作、内装も本格的なトレーラーハウスは、想像以上に実用的で、それだけに、約2メートル四方という小ささがなんだかとてもかわいい。中は、ルアー、釣竿、釣り専門誌などはもちろん、キャップやTシャツなどのオリジナルグッズ、洋服、サングラスや革細工の小物、さらにはお菓子やお茶、文房具まで並んでいる。

　店名の「LUCK」には「運」という釣りに通じる意味はもちろん、「出会い」という意味もあり、「釣りと魚との出会い、人とモノとの出会いをテーマにしています」と椋田さん。
　釣り具屋で14年間働いていた椋田さんは、趣味としての釣りを続けるにはお金がかかりすぎることや、次々新しい商品が発売され、大量の商品が売れ残ってしまう釣具業界の現状に疑問を抱いてきたという。「それで、自分が店を始めるときは、商品を厳選して、ロングセラーになっているものや、『これさえあれば釣りができるんですよ』というものを扱って、新しい釣りのスタイルを提案をしていこうと考えました」と椋田さん。「釣りをするひとは釣具にお金をかけすぎてしまうので、釣りにも日常生活にも両方に使えるものや、質の良い品物を紹介することで、釣り以外の時間も心豊かに暮らしていけるようなライフスタイルを提案したり、釣りをしないひとには雑貨やおやつを買いに来るのをきっかけに、釣りにも興味をもってもらえたら」と、自分自身が試しながら、素材や実用性にこだわった品物を丁寧にセレクトしている。
　釣りの楽しさってどんなところですか？という素朴な質問に、椋田さんはおそらく謙遜なのだろうけれど「僕自身は実はそんなに釣りがうまいわけではなくて」と前置きしながら、「釣りをやっていると、小中学生からかなり年上のひとまでいろんなひとに出会える。釣りを通じて出会ったひとたちと一緒に企画したり、つくっておられるものを取り扱わせてもらったりしてつながれるのが楽しいですね。それに、外で遊ぶのってやっぱり気持ちがいい。競ったりするんじゃなくて、自然を感じながらリラックスしてすごすのがいいですね」と話してくれた。現在は、初心者でも簡単に仕掛けができるような釣竿を開発中と椋田さん。私もどこかで釣り糸を垂れる日は近いのかも……。

【はま】