ワイルドキッチン石窯パン工房
マルシェなどのイベントで見かけるワイルドキッチン石窯パン工房の店頭には、いつも列ができている。ワイルドキッチンの堀内悟さんとツジタカコさんは2人で休まず立ち働くが、なかなか列は途切れない。ようやく列が切れたと見計らって行くと、パンが売り切れていた…そんな経験もあって、行列が苦手なわたしも、ワイルドキッチンの列にはおとなしく参加することにしていた。ワイルドキッチンを知った当時、彼らは実店舗を持っておらず、イベントでしかパンを買うことができなかったからだ。
ワイルドキッチンのパンは、大ぶりで、外は少しハードで、中はずっしり詰まっていて、噛むほど滋味深い、味わい深いパンだ。パンの列に並んだ翌朝から、2、3切れずつ切り出して食べる楽しみが始まる。うまく常温保存できれば、日が経つにつれて味が深まり、ほどよく酸味も出てくる。そして数日後、次にワイルドキッチンのパンを食べられるのはいつだろうと少々名残惜しみつつも食べ終える。わたしにとっては、そんなちょっと特別なパンだったのだ。
しかしそんなワイルドキッチンが、ついにパン工房兼自宅を完成させ、今年の春、お店をオープンした。「ついに」というのは実は、約6年もの年月をかけて、パンを焼く石窯、そして建物までも自分たちでつくっていたからだ。堀内さんは、仮設の小屋と石窯をつくり、そこで暮らしながらパンを焼いて売りに行き、窯を焚くのにつかう薪を取りに行きながら、少しずつ建物をつくっていったのだそうだ。
店は、永源寺地域の小高い山の中腹、道を登っていった先にぽつんとある。木や土などの自然素材と、解体現場からもらってきたという廃材をつかい、日本の伝統工法をもちいてつくられた、新しいような懐かしいような、あたたかみのある素朴な手ざわりの建物だ。
堀内さんのバイブルという本を見せてもらった。「廃材王国」(淡交社・1999年発行)。著者の長谷川豊さんは、長野県原村で「カナディアン・ファーム」という自然食レストランを営み、農業もやりつつ、解体された民家の廃材をつかって、自分たちで建物も建てている。20代の終わり、職業や生き方に迷っていた堀内さんは、長谷川さんの考えに惹きつけられて長野へ行き、カナディアン・ファームで2年ほど働いていたのだそうだ。そこでは建築、農業、料理などを経験することができ、独学で天然酵母のパンをつくることもできるようになった。
そして堀内さんは滋賀に帰り、紆余曲折を経つつパンを焼きつづけて10数年。どんなパンをつくりたいですかと尋ねると、「最高にうまい、飽きのこないカンパーニュがつくれたらいいですね」と話してくれた。今日もワイルドキッチンのパンがおいしいということが、堀内さんのひたむきさの証だと思った。
ワイルドキッチン石窯パン工房
滋賀県東近江市池之脇町 忠連谷473-2
TEL : 0748-56-1292
営業日 金・土・日・祝
営業時間 10:00〜17:00
イベント出店による休みあり。 店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
ナビでは場所が表示されないので、
【はま】