いつか思い出す、まるいパン

つるやパン まるい食パン専門店

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2016年7月26日更新

 味の記憶そのものは、写真や録音のように閉じ込めることができないから、もしかしたらどこか不確かなものなのかもしれない。けれども、誰と、どこで、どんな季節に、どんなものを食べたか。そんなまるごとの風景の記憶が、食べものの記憶なんだと思う。
 今年4月。長浜駅から歩いてすぐ、地元の人に長く親しまれていた「内藤製パン」があった場所に、「まるい食パン専門店」ができた。木之本の「つるやパン」が創業以来はじめてつくった2号店である。
 つるやパンといえば、その名前を全国的にした「サラダパン」が有名だが、木之本の店舗で一番人気なのは、実は「サンドウィッチ」なのだそうだ。ふわふわのまるいパンに魚肉ソーセージとマヨネーズをはさんだ「サンドウィッチ」は「サラダパン」の翌年に誕生し、その歴史は60年近く。まるい形はかわいいだけでなく、おいしさの秘密もにぎっている。円形は中心までの距離が等しいので均質に熱を通すことができ、焼き時間が短縮される。そのために皮が薄く、ふんわりとした焼き上がりになるのだ。しかしその柔らかさのために物流には向かず、木之本の店で地元の人に愛されてきたのだという。

 人気のサンドウィッチのまるいパンを、食パンとしてそのまま売ってほしいという要望は長くあったそうだ。まるい食パン専門店の店長・西村洋平さんは「でも、魚肉ハムとマヨネーズの味でちょうどいいパンなので、食パンとして販売することには、要望をいただくほど慎重になりました」と話す。「家庭の味として定着してもらえる食パンを」と1年ほどの試行錯誤を繰り返し、「まるい食パン」は完成した。きめ細かくふわふわで、ほんのり甘くてちょっとクセになるような、けれどもリッチすぎないシンプルな味だ。
 店にはまるい食パンにまつわるメニューだけが揃う。名物「サラダパン」もなく、それが「専門店」の心意気なのだ。朝7時のオープンから「たまごトースト」、「ピザトースト」などのトーストメニュー各種が、そして11時からはその日の焼き立てのまるい食パンの販売が始まり、焼き立てのパンでサンドメニューが楽しめる。サンドは、注文してからはさんでくれる。
 場所についてなぜここを選んだのか尋ねると、西村さんは「木之本は観光客の方もよく来てくれるお店になったけれど、やっぱり地域の方、学生さんに来てもらいたくて。特に学生さんには、トッピングとかパンの種類で楽しんで、パンを覚える場所にもなればいいなと思います」と話してくれた。駅や高校が近く、学生が通学に通る道。それは伊香高校の学生たちが学校帰りに寄る本店の風景に通じる。「あの頃食べたものの記憶って、忘れませんよね」。そう話す西村さんにもきっと、思い出の味があるのだろう。いつか思い出になる今日も、まるいパンが店頭にならぶ。

つるやパン まるい食パン専門店

滋賀県長浜市朝日町15-31
TEL: 0749-62-5926
定休日 水曜日
営業時間 7:00〜17:00

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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