ソラミミ堂

邂逅するソラミミ堂44 びわ湖の息の根

このエントリーをはてなブックマークに追加 2020年1月24日更新

イラスト 上田三佳

 氷魚のたよりがとどきはじめた。湖国の冬が深まってきた。
 そうなると、気になりだすのが「深呼吸」のこと。だれの? びわ湖の。
 年に一回、びわ湖は冬に「深呼吸」する。この時期、びわ湖の表層の水と深層の水がぐるっとまざる。「全層循環」という。それがなぜ「深呼吸」なのか。
 表層の水には酸素がしっかり溶け込んでいる。大気から溶け込むし、水のなかでは植物プランクトンたちが光合成して酸素をつくるので。
 いっぽう深みは日がささないからそこで酸素はつくられない。しかも表層で死んだプランクトンなどが湖底につぎつぎふりつもる。それを微生物たちがせっせと分解するのに周りの酸素をつかう。酸素はなくなる一方である。「酸欠」になる。
 いそいでまぜねばならないが、寒くなければまざらない。
 あさいもふかいもおなじ水じゃないか。でもまざらない。
 春から夏のあいだに表層はあたためられて水温は高くなるが、深層はずっとつめたい。風呂をわかすときとおなじで温度差があるとまざらない。
 きちんと寒い冬がきて、表層がしっかり冷えると深層との温度差がなくなる。それでようやく酸素を含んだ表層の水が、酸欠気味の深いところへ沈んでいって、めでたく酸素がいきわたる。これがびわ湖の「深呼吸」。びわ湖が「息をふきかえす」。
 「深呼吸」できないと「窒息」してしまう。深みにくらすいきものたちが死滅する。やがて連鎖して、あのうまい氷魚も食えなくなるかもしれぬ。
 かもしれぬ、ではなくなってきた。このごろ冬があたたかかったりして、調子がおかしくなっていたが、前回の冬、ついにびわ湖は「深呼吸」しなかった。
 このごろの暖冬が「地球温暖化」の影響なのだとしたら、びわ湖の「息の根をとめる」のに、世界のみんな、僕らも加担していることになる。
 目の前のびわ湖のことも地球のこと。ほとりの僕らになすすべはあるか。だからって「人工呼吸」すると言ったらびわ湖は「ため息」つくかもしれない。
 みかねた地球が帳尻あわせしたのだろうか。昨冬できなった「深呼吸」を今秋たすけたものがあった。東のまちを苦しめた、あのひどい台風だった。

 

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