百百百百のとうじ蕎麦

百百百百

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2019年12月30日更新

 「百百百百」は、中山道鳥居本宿にできた蕎麦専門店の屋号である。「どどもも」と読む。街道沿いの江戸時代後期の建物(築約200年・登録有形文化財)を改修し、今年6月にオープンした。店主の小林満さん(44)が、収穫した殻つきのままの蕎麦の実(玄蕎麦)を自家製粉し、毎朝心を込めて蕎麦を打っている。
 百々氏は、浅井氏に属していたころには佐和山城の城代を務めていた。本能寺の変後の山崎の合戦で、羽柴秀吉の家臣として従軍している。話したいことはいくつもあるが、今回は蕎麦である。
 百百百百を初めて訪ねたのは8月。十割蕎麦とは、100%蕎麦粉と水以外、混ざり物が一切なく打つ蕎麦のこと。僕は十割蕎麦(挽きぐるみ:殻付きのまま挽いて打った蕎麦)、十割蕎麦(丸抜き:玄蕎麦の殻を剥いた抜き実を挽いて打った蕎麦)を食べた。

 小林さんは、「故郷の山で採取した松茸を、蕎麦とともに楽しんで欲しい」と話していた。長野県飯田市出身らしい。松茸は帰郷し山に入り、自分で採るという。
 10月、期待を込めて出かけたが、今年、故郷の松茸は店で出すほど収穫できなかったそうだ。天ぷら盛り合わせを頼んだ。柿の天ぷらが印象に残った。このとき、12月には「とうじ蕎麦」を食べに来ようと思った。寒い時期の温かい蕎麦も旨い。師走に入って予約の電話を入れた。
 「とうじ蕎麦」は長野の名物である。竹ひごを編んだ「とうじ篭」に蕎麦を少量入れ、野菜やきのこをたっぷり入れたつゆ(鍋)に浸し、さっと湯がいて食べる。信州の文化である。蕎麦をつゆに浸すことを「湯(とう)じ」といい、ひたし・あたためるわけだ。「とうじ篭」は、「とうじ蕎麦」専用の道具であることは言うまでもない。生蕎麦を温める最適な大きさと長さ、篭の目が工夫されてきたに違いない。

 ところで鳥居本宿は、江戸時代にできた宿場町である。中山道は、古代の律令制下に整備された東山道のルートをほぼ踏襲している。井伊氏が居城を中山道沿いの佐和山城から彦根山に移すことが決まった慶長8年(1603)、新しく鳥居本宿が造られることになり、江戸から63番目の宿駅となった。ちなみに、百々村は鳥居本の南端に位置し、百々氏の一族が集落を形成していたことで知られている。
 中山道は木曽街道ともいう。湖東・湖北では伊吹蕎麦や多賀蕎麦など、途絶えかけた蕎麦栽培が復活している。近江にも確かに蕎麦の食文化はあったはずなのに、知る限り、蕎麦を温めて食べる独特の食文化は伝わっていない。鳥居本宿ができて420年、ようやく信州の文化が伝わったのである。大袈裟にいえば、「百百百百」の建物で「とうじ蕎麦」を食べるということは、歴史的邂逅なのである。
 かんじんの「とうじ蕎麦」はどうだったか? 歴史的邂逅は3月末まで。「とうじ蕎麦」一人前1500円。天ぷら盛り合わせ、蕎麦豆腐をセットすると2000円。ほかほかと芯から温まる。生蕎麦を温めると食感が変わり、「とうじ」の所作が楽しく、蕎麦がなくなってしまうのが惜しくなるほどである。

百百百百

滋賀県彦根市鳥居本町1804
tel.0749-20-2024
火曜・水曜定休(祝祭日は営業)
26日(木)臨時休業・31日(火)営業・年始は4日(土)から営業

ランチタイム 11:00〜14:00
カフェタイム 平日のみ14:00〜17:00(ラストオーダー16:00)

十割蕎麦(挽きぐるみ)850円、十割蕎麦(丸抜き)850円〈とろろ・ ごはん・蕎麦豆腐がつくセットはプラス400円〉

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

小太郎

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