地域探索(まちの見え方) 1

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2018年1月10日更新

 少し前と言っても半年ほどだが、滋賀大学経済学部の近藤紀章先生の授業で学生の方々と話す機会があった。DADAジャーナルについても説明をした。「新しいまちがいろいろできて、かっこいいまちもたくさんあるなかで、僕らが、何をどういう風に語ることができるかということがとても大事だと思います」、「もしも、不思議なものや面白いものを発見して書いてくれたら、DADAに掲載するよ」と話した。2017年12月……。本当にレポートが届いた。ウェブサイトに掲載したDADAの過去記事を読み、実際に訪ねたレポートもあった。何十年とこのまちで暮らしている者にとっては、まちの見え方が明らかに異なり新鮮だった。僕は、掛け値なしに今年一番嬉しかった。僕を喜ばせるツボを心得ているようだ。本文は、編集部でタイトルと一部小見出しを入れた他は、できるだけ原文のまま掲載した。

私だけが見えているまちの魅力

固有名詞

 私がDADA Journalの記事の中で最も印象に残ったのは、「零戦」である。記事は戦時中に零式艦上戦闘機を製造していた「近江航空」と、西洋帆布を製造していた「近江帆布」という二つの会社を取り上げている。さらに近江帆布の方は、「近江帆布は西洋帆布を製造する会社で、明治30年に設立され、大正11年彦根の近江紡績(株)を合併、近江帆布(株)彦根工場となった。近江鉄道の近江帆布専用線があったのだ。」とある。戦時中の会社の名称が踏切の名称として現在も残っているのだ。
 この記事が印象に残ったのは、趣味の旅行で似たような発見をしたことを思い出したからである。山口県に「新山口」という駅がある。新幹線も停車する山口県のターミナル駅だ。実はこの駅、2003年までは「小郡」という駅であった。新幹線のぞみの停車に合わせ、旧地名の駅名が変更されたのである。しかし、私が数年前旅行で訪れた際、この駅で購入した駅弁の包装紙を見ると、「小郡駅弁当」と書いてあった。地元の弁当屋さんは昔の地名を駅名が変わってしまっても大切に会社名に残していたのである。
 実際現地を訪れてみた。
 確かに「近江航空」の文字がある。また、踏切付近の線路沿いに不自然に広い草むらがある。かつて工場の専用線が敷かれていたことがすぐにわかるような形で空き地がのびている。戦争時代の名残や名前が残っていることを確認できた。やはり、時間がたってもどこかに昔とかわらないものや、時間の流れを感じさせるものが残っていることは素晴らしいと感じた。

固有名詞の省略

 また、わたしがおもしろいと感じたものは近江航空踏切の隣にある、芹川の土手の踏切表示である。ここも同じくJRと近江鉄道共同の踏切なのだが、警報機の隣にある列車の侵入方向を示す表示に、一瞬戸惑ってしまった。JRと近江鉄道の表示があるのだが、近江鉄道が、「近鉄」と省略されているのだ。長く地元に住んでいる滋賀県民なら普通のことだと思うかもしれない。しかし、下宿で今年から滋賀県に来た私にとっては「近鉄」と書かれるとつい、近江鉄道ではなく、「近畿日本鉄道」の略称を思い浮かべる。この省略の仕方が全く同一で表記されているのがおもしろいと感じた理由である。
 近畿日本鉄道は大阪や奈良を中心に京都、三重、愛知にも路線を伸ばし、近年では阪神電鉄と乗り入れを開始し私の出身である兵庫県、神戸三宮までやってくる、営業路線距離、規模ともに日本最大の私鉄である。今回の発見をきっかけに近江鉄道についても興味を持ち調べてみると、米原を出て、彦根を通った後、多賀大社、八日市、近江八幡、貴生川まで路線がある鉄道だと知った。更に驚いたのは、経営しているのが、関東の大手私鉄の西武グループだったことである。「西武ライオンズ」のロゴを電車で見かけて、こんな遠くのまちの電車にどうしてこのロゴマークがあるのかと思っていた疑問もはっきり解決した。それまで近畿日本鉄道しか知らなかった私は、「近鉄」という略称を踏切で見た途端、どうしても名阪間を走る特急列車や満員の通勤電車を想像してしまった。そして、そんな想像とは対照的に、2両の電車がのどかに走ってきたのを見てあまりのギャップに驚いてしまった。これが、他県からやってきた人の視点からみておもしろさを感じた彦根の踏切である。

思いは表裏一体

 疑問を感じたものもあった。下宿から大学へ向かう途中にある飛び出し坊やである。大学に通学しはじめて数日後に発見したのだが、疑問とともにおもしろい要素もかなりあったため一度立ち止まって見つめてしまった。
 形は通常の飛び出し坊やなのである。しかし、体の部分のイラストが完全に、「ドラえもん」を表現しようとしたイラストになっている。どうしてわざわざ、飛び出し坊やとシルエットを合わせるのに無理のあるドラえもんを描こうとしたのかが一番の疑問である。近付いて詳しく見てみると、明らかに体の形が合わないのがわかる。胴体と丸みを帯びた手はともかく、顔の形が合わずアンバランスになってしまっている。本来ドラえもんにあるはずのない髪の毛の部分は水色に近い色を塗ってごまかしているようだ。そして最も不自然なのは足の部分である。飛び出し坊やのシルエットに合わせたために、ドラえもんらしさの一つの短足が全く別物に成り代わってしまっている。
 ふと反対側はどうなっているのかと思い見てみると、野球少年なのである!手にバットとボールを持っているが、飛び出し坊やの原形はとどめている。明らかにこちら側の方がきれいで整っているのに、どうして片側だけ無理やりドラえもんを試みたのかが不思議でたまらなかった。ただ、あえて別々のイラストにすることで目立ち、本来の道路横断の注意喚起には役立っているのではないかと感じた。
 今回、自分の発見を記して感じたことは、どんなに小さな発見でも、文字や文章にすると伝えたいことがかなり出てくると言うことだ。日常生活の中での小さな発見や出来事をくだらないとするのではなく、少し立ち止まって深く考えてみるのも大切だということが分かった。

(H.O)

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