山内さんの愛おしいもの・コト・昔語り「そばなときゅーちゃん漬け」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 2020年6月10日更新

きゅーちゃん漬けとそばなのお浸し

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(92)和子さん(92)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。今回は、「そばな」と「きゅーちゃん漬け」。
 山内さんが「そばな」と呼ぶのは、そばの間引き菜で、お浸しにしてもてなしていただいたことが2度ある。初めて口にしたとき、お二人に「何かわかるか?」と楽しそうに問われ、わかりそうで分からず答えに困った。喜平さんは「そばや」と嬉しそうに教えてくれた。そばなのお浸しでもてなして、そばと分かった人はいないと言われる。「特に癖もないけど、うまいやろ」というお味だ。和子さんは、「そばなはサラダにも使えるし、お吸い物の浮かし、ちょっと添える色どりと、色々重宝や」と話された。
 喜平さんがそばの栽培を始めたのは20代の半ば。その頃、古橋でそばを栽培する人はいなかったが、一人80代くらいのおじいさんがかつてそばを栽培していたからと、そば栽培の色々を喜平さんに教え、間引き菜を食べることも教わった。折に触れ、そばなでもてなす喜平さんが伝えたいのは「間引き菜を食べることも、古くからある食文化」ということだ。「子どもじぶん、ほうれん草や小松菜はなかった。この辺りで白菜の種が初めて播かれたのは、小学生の時、学校の畑やったんやで」と喜平さんは話し始めた。今、当たり前に食べている野菜の歴史は意外にも新しく、「青菜と言えば、しゃくし菜かチシャくらいしかなかったなぁ」と。
 現在、喜平さんは玄関先のプランターにそばの種を播く。そばなを食べることが目的だ。種を播くのは4月下旬から10月下旬までいつでも良く、季節によって10日から25日、本葉が2枚ほど出た時が食べ頃で、その後も新芽を3度くらい摘み、一つのプランターのそばなを食べ終え、また欲しくなると種を播く。この日のそばなは2週間前に種が播かれ、2枚目の本葉が出始める食べ頃のものだった。

 「夏場の野菜はきゅうりと、なす、なんば(唐辛子)くらいやったかなぁ。若いきゅうりに塩をすりこんでさっと水洗いしただけを〝きゅうりのかりかり〟と言うて丸ごとかじった。おやつにも食べたで」と喜平さん。おやつは賃(ちん)と呼び、「賃、くれ」と言うと「これでも食べとけ」ときゅうりが出てくるという具合だったり、畑でもぎたてを食べたり。「あのじぶんは、ほれでも旨かったなぁ」と言い、下半分が白いきゅうりを栽培していた事、たくさん採れると塩漬けにして、秋以降に塩抜きして炊いて食べたことなども思い出してくださった。
 「これは最近のもんやけど」と、和子さんと二人で作った「きゅーちゃん漬け」を出してくださった。「きゅーちゃん漬け」は自家製で作る人も多く、色々な作り方があるようだが、たいていの場合は茶色に仕上がるのに対し、喜平さんのは緑色が残っている。その作り方を紹介しておくと……。
 大きめの鍋に湯を沸かし、沸騰しているところに4〜5本のきゅうりを入れ、再沸騰してから1分~1分半沸騰させ、引き上げて冷水で冷ます。冷めたらもう一度同じことを繰り返し、厚さ5〜6ミリに切り、水気をきって漬け汁に漬け、冷蔵庫に入れる。3日後くらいから食べられる。漬け汁は、醤油、みりん、酢各150cc、しょうがひとかけを千切りにしたものと、好みで鷹の爪か一味唐辛子も加え、煮立たせたもので、冷ましておいてきゅうりを漬ける。この方法は私の知る方法よりもずっと短時間でできる。
 食べ物の話は面白いうえに、試してみたくもなる。「播いてみるか」と言ってくださったのでそばの種をもらった。季節ごとの収穫までの日数などを書いたメモ付きで。

 

光流

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