山内さんの 愛おしいもの・コト・昔語り「小鮎のへしこ」と「鮎寿司」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 2020年5月20日更新

鮎寿司を漬ける喜平さんと和子さんと(平成25年ごろ)

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(92)和子さん(92)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。今回は、「小鮎のへしこ」と「鮎寿司」。
 前回、ゼンマイと川原ゼンマイ(コゴミ)のことを書いた。コゴミを乾燥して保存できることは初耳だったが、喜平さんは「どちらも一時には食べきれんくらいたくさん採れたんや。冷凍や水煮という保存方法がなかった時代の知恵やな」と言われた。「小鮎のへしこ」も同様の知恵から生まれた保存食で、高時川と大谷川でたくさん鮎が捕れたため考えられたのだろうと言われる。
 へしこは、鯖や鰯などを糠に漬けた福井県若狭地方の郷土料理として知られている。喜平さんは、この辺りはかつて福井から行商人が干物やひと塩した鯖などを売りに来ていて、その中に「鰯のへしこ」があり、鰯を鮎に置き換えて作られたのが「小鮎のへしこ」だと考えておられる。

鮎寿司を漬ける工程。背開きして塩漬けされた鮎と、ご飯を詰めた鮎。

 お二人で何度も作ったというその作り方は、新鮮な小鮎を買い求め、塩をまぶしてぬめりをとり、手早く、丁寧に水洗いして水切りする。あらかじめ準備しておいた糠と塩を混ぜ合わせたものをまぶし、桶に入れ重石をして約5か月、12月ごろに食べ始める。食べる際には糠はついたままで、「ほら旨いで」と喜平さん。「熱いご飯に乗せると最高」と和子さん。残念ながらどんな味なのか、想像するのはなかなか難しい……。
 喜平さんは、行商人から買い求めた鰯のへしこは、各家で壺などに漬けなおして保存したこと、現金がない家庭では米と交換していたことなども思い出してくださった。和子さんは「塩漬けの鯖が手に入るとばあちゃんと鯖寿司を漬けたもんや、ご飯に山椒の実をまぶして漬けるんや」と楽しそうに話される。鯖寿司は、和子さんの実家の木之本でも漬けていたと言われ、湖北では各家庭で漬けるのが一般的だったようだ。

ご飯を詰めた鮎を桶に漬け込んだところ

 「ほして、お父さんは鮎寿司も作ってやはったんやで」と和子さん。鮎寿司は小鮎ではなく、体長20センチ強の大鮎を使い、背開きにしたものを塩漬けにして、その後山椒の実を混ぜたご飯と一緒に漬け込み、約100日で食べごろになると言われる。鮒寿司ほど高級ではなく、鯖寿司よりも上品な味で、切らずに丸ごとがぶがぶと食べる。喜平さんは一度に100尾の鮎をさばいたと言われ、「お父さんの背開きは見事やで」と和子さん。平成25年ごろまで漬けておられたそうだ。
 古橋やその周辺では行商人によってもたらされる海の魚も上手に保存食になり、北國街道、北國脇往還が通る地域ならではの食文化を育んでいったのだ。行商人が運ぶ海魚、近くで採れる川魚、ただ食べるだけでなく手間を惜しまず保存する。忙しくても季節感豊かで、訪れる季節を待つ時間も楽しみだったことだろう。
 もう一つ、喜平さんの子どものころには「川漁師」がいたそうだ。初夏から秋までが漁師、晩秋から春までは山仕事や農作業をしていたと言われる。商売になるほど需要があり、魚も捕れたということだろう。

光流

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