山内さんの愛おしいもの・コト・昔語り「堂番」と「拍子木」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2019年5月15日更新

左より、サクラ、同、ナツメ、ツバキで作られた拍子木

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(91)和子さん(91)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。「愛おしいもの・コト・昔語り」は、私が聞いた中でもこれはと思った、或いは伝えておきたい山内さんの記憶である。今回は、「堂番(どばん)」と「拍子木(ひょうしぎ)」。
「拍子木はあるんか?要ったらやるで」、オコナイの夜回りの話をしていた時、喜平さんはそう尋ねてくれた。一瞬返事に窮したのは、拍子木を頂いても使い道がないと思ったからだ。拍子木と言えば夜回りに使うもの、現在、私の住む町には夜回りの習慣はない。かつて、私が生まれ育った集落では「夜回りの当番ですよ」と告げるために順番に拍子木を家々に回していたので、拍子木は自治会の持ち物だったはずだ。ところが喜平さんのお話では古橋では各家々が拍子木を持っている。しかも「なけなならんもん」だと言われる。和子さんは「『堂番』と言って、2軒の家が順番に拍子木を打ちながら夜回りする習慣がありますのや。時間は夜の8時くらいで、50日に1回ほど回ってきます」と教えてくれた。与志漏神社境内にある観音堂をはじめ、いくつかのお堂を夜回りするのだという。喜平さんは、「昔は『どーばん』と言っていたようですが今は『どばん』と言ってます。いつから行われているのかを聞いていませんが、ずっと続いています」。拍子木はそのための必需品ということになる。
 喜平さんは米寿を迎えた88歳の時、パチパチと音がするところから八と八のごろ合わせで拍子木をいくつか自作した。なので、「まだあるさかい、要ったらやるで」と言ってくれたのだ。「これはずーと使っている拍子木で、こっちは私が作った拍子木」と、玄関に置いてあった拍子木と、奥の間から紙袋に入った拍子木を持ってきて見せて下さった。ずーっと使っている拍子木は、やや小ぶりで角が丸くなり、使い込まれていることが一目でわかる。「これは椿や。父親が『椿はやわらしい音がする』というのを聞いたことがあります」。
 そうそう壊れるものではないのでずーっと使うことができるが、時には割れたり、ひびが入ったりする。良いものを欲しいと思う人もあり、喜平さん自作の拍子木はいくつか古橋の人にもらわれている。堂番の人が打つ拍子木の音を聞けば自作の物かわかるのだろうと思う。
 自作の拍子木の材は、ナツメとサクラ。「ナツメが良い音がする。堅い木ほど高い音が出てよく響く」と喜平さん。拍子木の音にこだわりがあることにも驚くと、「拍子木は楽器やで」と言いそれぞれに打って音を聞かせてくれた。どちらも良い音がする。一本の木から何十本か材料となる木片を切り出し、打った時の音を考えながら2本を組み合わせて作るとも言われる。「相撲の土俵で使う拍子木があるやろ、あれは横幅が広い。ほして手元に紐がぐるぐると巻いてある。おそらく、長く響かんようにしてあるんやと思う」といつものように鋭い考察を話される。なんでも自作される喜平さんだからこそのお話だ。
 もう一つ、堂番についてはこんなことも言われた。「昔、今でいうところのホームレスのような人が仰山いやったやろ。夜になると、堂をねぐらにしてやった。堂番は、そのような人たちにこの集落はお堂を大切に守っていることを知らせるためにも行われたと思う。拍子木の音は、『回ってきましたよ』と告げ、ばったり出会ってしまうことを避ける知恵やと思います」。喜平さんに色々教わると、当たり前と思っていたことに違った深い意味があることを知り、「あー合点がいきました」と思う楽しさがある。「ほんでもな、堂番が終わったら、もう誰もきゃーれんと、教えてるのと一緒やけど」、……「確かに!」である。

光流

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