山内さんの愛おしいもの・コト・昔語り「婿ぶり」と「嫁かがみ」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 木之本町 2019年2月7日更新

山内喜平さんの作品 臼と杵

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(91)和子さん(91)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。「愛おしいもの・コト・昔語り」は、私が聞いた中でもこれはと思った、或いは伝えておきたい山内さんの記憶である。今回は「婿ぶり」と「嫁かがみ」。
 最初、婿ぶりと聞いたとき「男っぷり」が良いと言うときの「ぷり」、「人のふり見てわがふり直せ」と言われるようなたたずまいや動作を表す「ふり」を連想した。結婚する際の男性への誉め言葉かなと思ったが、〝ぶり〟とは魚のブリ(鰤)のことだった……。
 「結婚後、初めて、お嫁さんの実家に贈る歳暮は魚のブリで、それを『婿ぶり』と言いますのや」と喜平さんが話し始めると、和子さんは、「私らが結婚した時にはしてませんのやけど、息子の時に『やってみよか』と思い立ち、お父さんが木之本の魚屋さんに大きなブリを注文して、ホンマに立派なブリで運ぶのに難儀するほどやったんです」とか「後になって魚屋の奥さんから、私らの代に婿ぶりを売ったのは山内さんが初めてやったかもしれないと言われました」などと次々思い出を話して下さった。お二人によると、婿ぶりを贈られたお嫁さんの実家から贈るのが鏡餅で、それが「嫁かがみ(嫁鏡餅)」。ブリも鏡餅も切り分けて、ご近所や親戚に配るのだそうだ。喜平さんは「ブリは出世魚で、縁起もええし」と言い、和子さんは「お嫁さんは、嫁いだ家に慣れ親しんで、色々なものを映しだす鏡のような存在、子どもができたら子どもの鏡でなければならないというような意味が込められてるのやと思います」。鏡餅の大きさはどれくらいあるのかを尋ねると、喜平さんは「ほやなー、オコナイの鏡餅くらいの大きさやったかなー。1尺ほどかな。ほうすると糯米が6升くらいかなぁ」と思い出して下さり、真新しい板に載せて届けられたそうだ。
 古橋だけの風習ではないようだが、聞くほどになかなか大変な風習に思われる。けれど、「古橋へお嫁にいかんした○○ちゃんの婿ぶりや」と、ブリが食卓をにぎわすとき「良い所へお嫁にいかんたんやね」、「元気にしてやんすやろか」などという会話が聞こえてきそうな気もする。お嫁さんを育んでくれたご近所や親戚の人たちへ、感謝とお嫁さんを大切にしていますよと伝えるのもブリの役目だったことだろう。喜平さんが大きなブリを買い求めたかった気持ちも理解できる。
 喜平さんと和子さんのご子息が結婚されたのは30年ほど前。当時の古橋でも行う家は多くはなかったことがお二人のお話から感じ取れた。「婿ぶりをやってみようか」と思い立たれたのは、できることは何でもしてやりたいという「親心」と、古いしきたりや風習を大切に思われていたから。そして私が教わることができた。
 木彫が趣味の喜平さんはご自宅にいくつか作品を飾っておられ、部屋の隅に置かれた小さな臼と杵もその一つ。飾る理由を、「餅を搗くというのは、もちつく、持ち続けるに通じますのや。財産を持ち続けるとか、良い習慣を持ち続けるとか、身につくとか。臼と杵はその象徴でめでたいものということです」。喜平さんに教わると、お正月に餅を食べる意味、嫁かがみが餅である意味、臼と杵はただ臼と杵ではないこと、「ふーん」と合点がいったような、あたたかな気持ちになった。

 

光流

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