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半月舎だより 22

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2018年9月3日更新

夏の野望

 8月16日の朝、前日おそくまでかかって箱詰めした本を車に積んで、京都に向かった。めざすは四条河原町にあるデパート「マルイ」。マルイエントランスで開催された若手古本屋8店舗による4日間の催し「京都マルイ 夏の古本市」に、本を納め、一日店番をするためだった。
 開店前のデパートで、「催事用ワゴン」という台に本を詰め込んでいく。デパートでの古本市は、都市部ではよく開かれているようで、他の古本屋さんのワゴンづかいは手慣れて巧みだった。ワゴン一台いくら、と場所代が発生するので、みなさん箱や棚を活用し、きっちり目一杯、ワゴンに本を詰め込んでいる。わたしはといえば、初めてつかう催事用ワゴンにどぎまぎと本を詰めていったが、大きさをうまく想像できていなかったために、持参したダンボール箱9箱ぶん全ての本を入れ終わっても、2つのワゴンはなんだかすかすかだった。そんなことにくよくよする暇もなく、10時半の開店に間に合わせるためワゴンを外へ運び出す。ワゴンを設置するそばから待ちかまえたお客さんたちが本を手に取り始め、開店まえからレジのまわりに人が集まりだした。
 この日は京都の夏の名物「下鴨納涼古本まつり」の最終日で、五山送り火の日でもあり、平日でありながら相当な人出だった。いかにも古本ずきそうなお客さん、国内外の観光客、通りすがりの買い物客、老若男女が入り乱れ、背表紙をじっと見つめ、ページをめくるさまは、四条河原町の喧騒のなかに静かで独特な熱気をかもしだしていた。普段は閑古鳥をともなう店に座っているばかりなので、こんなに本を好きな人がたくさんいるのかと、胸が熱くなってしまった。
 そして、本が「とぶように」売れていった。ふだん店では定位置の本棚にぴたっとおさまっている半月舎の本たちも次々出ていき、怒涛の初日が終わってみれば、60冊以上の本が売れていた。初めからすかすかのワゴンはもっとすかすかになってしまった。閉店作業をするとわたしはそのまま彦根に駆け戻り、さらにダンボール9箱ぶんの本を車に積んで、翌朝ふたたび京都に赴いた。
 さてさらに翌日の8月18日の朝、わたしは大津の山中にある「桐生キャンプ場」に来ていた。野外音楽イベント「寝待月のショー」に、ワイン屋のスリーさんと一緒に出店するためだった。
 連日の納品と準備にくたびれてぼんやりとしていたが、木立ちのなかに本棚を設置するうち、楽しくなってきた。こんな森のなかにお店をつくるなんて、「もりはおもしろランド」シリーズみたいじゃないか、と思ったのだ。「もりはおもしろランド」は、イタチが営む「もりのおかしやさん」やフクロウが店主の「もりのとけいやさん」など、森にお店をかまえる動物たちが主人公の児童書シリーズ(舟崎靖子作・偕成社)。動物たちのドタバタ劇に夢中になった子どもの頃の気持ちがよみがえった。
 スリーさんとああだこうだと店構えを相談し、とてもすてきな「もりのワイン屋と古本屋」が完成した。しかし「もりのワイン屋と古本屋」は、イベントのメインエリアから離れた場所にあったため、ほとんどのお客さんに気づかれず、日がなのんびりとしていた。わたしはお客さんを待つともなく、本を読んだり、うとうと昼寝をした。
 後日、本の撤収にみたびマルイへ伺った際、残る2日はさらにたくさんの本が売れ、京都に店をかまえる古本屋さんは毎日追加納品をしたと聞いた。さすがと思った。わたしはといえば、四条河原町の一角に生じたあの独特な熱気と、森でうとうとした記憶とを行ったり来たり思い出しては、いまだになんだかくらくらしている。

M

編集部

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