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淡海の妖怪

太郎が母

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 地域: 余呉町 2015年9月16日更新

 北陸新幹線が金沢まで開通し、敦賀ー大阪間の米原ルート実現に向けて決起集会が行われるなど、都市間の時間距離は更新され、快適で便利な移動が実現していく。代わりに、かつて北国街道柳ヶ瀬(余呉町)に近江国最北端の関所が置かれていた記憶は遠く希薄なものになっていく。世の中の不安に比例するかのように妖怪ブームである。妖怪の力を借りて、最北端の関所を記憶しておきたい。
 『昔、柳ヶ瀬村に「太郎が母」と呼ばれ、村中から親しまれていたお婆さんがいた。ある日、敦賀方面から峠を越えてやってきた一人の武士が、近江国に入ったあたりで日が暮れたため野宿の準備をしていると、どこからかオオカミの遠吠えが聞こえてきた。いつの間にか、無数のオオカミが武士のまわりを取り囲み、じりじりとその距離を縮めている。身の危険を感じた武士は、近くの松の木に登って難を避けることにした。木の下をぐるぐると周っていたオオカミの群れは、やがて一匹が他の一匹を肩車したかと思うと、次々に肩車でつながっていき、まるで梯子のように重なって武士に襲いかかろうとしはじめる。しかし、最後の一匹が足らず、武士まで届かない。そのうち、一匹が「太郎が母を呼んで来い」と言った。
 しばらくすると大きな古狼が現れ、肩車梯子の最上段に手をかけた。瞬間、隙を見つけた武士が刀で切りつけると、古狼とオオカミの群れは悲鳴を上げて逃げていったという。』
 これは、俗に「千疋狼」とか「鍛冶が婆」と呼ばれる怪異で、日本中に似たような昔話が伝わっている。いわゆる街道に出る妖怪で、関所のあった柳ヶ瀬らしい伝承である。
 この話には続きがある。翌朝、血のあとを辿って村までやってきた武士は「太郎が母」の正体を見破り、それ以降、村はオオカミの被害から救われたことになっている。しかし、その真偽については、少し疑問だ。
 「太郎が母」は村で親しまれているお婆さんである。旅の武士が村にもたらす厄(わざわい)を未然に防ごうとしていたようにも受け取れる。オオカミ(狼)は、けもの扁に良と書く。日本人にとって、畏怖の念を抱く存在だったとしてもおかしくはない。「太郎が母」が共同体で暮らす村人を害するとは、どうも考えにくい。
 人々の交流が盛んになると同時に厄もやってくる。「太郎が母」の物語は、村に厄をもたらす稀人が、村の長を殺して新しい秩序をつくり治めたという物語なのかもしれない。
 太郎が母の「太郎」とは誰なのだろう…。太郎のことが判れば物語の真相に近づけるのではないだろうか。

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