ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXXXVI 日課で勝負

このエントリーをはてなブックマークに追加 2014年4月8日更新

イラスト 上田三佳

 三月半ばにさしかかってもまだ何回も雪を降らせて、それで娘からは「忘れん坊さん!」という評価を下されてしまいました。あんなに何度も、いったいどんな忘れ物を、冬は、この町に取りに戻って来てたのだろう。
 季節の戸口でそんな行ったり来たりはあったけれど、冬のつぎにはやっぱり春になりました。
 いよいよ引っ越し。と言っても、慣れ親しんだ町内のここからそこへ、「九」から「六」へ、通りを二つまたぐばかり。路地から路地への小さな引っ越しなのですが、さあ、どんなてんやわんやが起こることやら。
 ついついかまけていたけれど、転居を機会に家とのつきあい、日々の暮らしを今よりもっとていねいにしていこう。掃除も手入れも、きちんとしよう。娘にもそこはしっかり伝えよう。
 今日ある昨日と変わらぬ仕事、あしたの今日と変わらぬ時間、暮らしのなかの、そうした時間やものごとをこそていねいに。
 その大事さは、友人のササキさんから学んだのです。フナズシ屋さんの七代目。
 「毎日のフナズシの桶の水替えが子どもの自分に与えられた日課でした。昨日も今日も、面倒だなあと思うこともあったけれど、今になって、この毎日のあったおかげと思うことがあります。フナズシを漬けるについて、その「正解」は未だにわからないのだけれど、「間違い」は分かるようになっていた。「異変」に瞬時に気付く力がついていた。フナズシ蔵に入った瞬間「!、おかしい」という直感が働けば、その違和感を出発点に対処を始めることができます」。
 手に手に持ったほうきとはたきとぞうきんこそは僕ら一家が僕らや僕らの時代がやらかしかねない「大間違い」と戦うための大事な身近な武器になります。

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