ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXXVII いつか別れと出会う日に

このエントリーをはてなブックマークに追加 2013年7月8日更新

イラスト 上田三佳

 僕ら夫婦の間には毎年六月に結婚記念日がきます。
 今年で十回目になります。十年くらいではまだ結婚も序の口なので、とくにどうということもないわけですが、おおかたの人にとってはいたって平凡な日であるはずの六月のある一日を今年も変わらずふたりの記念日として迎えられるということに感謝したいと思います。
 僕らに毎年こういう記念日がめぐってくるのは、十年前のある日に二人が結婚したということそれ自体のめでたさを忘れぬため思い出すためというよりも、その日を境にして二人とやがてその家族が積み重ねてきた歳月の意味やそのありがたさをそれを機会に振り返り、味わい、ときには反省するためなのだと思います。
 だからいろんな記念日はその当日の一日だけがめでたいのではありません。僕らに与えられたその記念日が毎年ちゃんと記念日らしくなるかどうかは、むしろ記念になるべきような日があり出来事があってからのち僕らが積み重ねる日々の中身にかかっていると思います。
 「運命の出会い」といってもはじめの出会いそのものがその後の五年十年の日々の豊かさを約束してくれるのではなくて、豊かな五年十年を積み重ね、分かち合えばこそ、はじめの出会いがますます輝く。そんな出会いの最たるものが例えば結婚なのでしょう。出会いの意味や結婚の値打ちというのはいつだって、あとから決まる。
 「死が二人を分かつ」その日が結婚の期限とするなら、僕らにとっての六月のある一日のほんとの値打ちは僕らにいずれやってくる別れとの出会いのその日に決まります。その別れとの出会いがどうか互いにとって豊かなものになりますように。

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